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ぱせりさん
ぱせり
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「私は「生きる」ということはあなたの物語をつくることだと思っています」
物理学者、佐治晴夫さんによるショート・エッセイ集。雑誌『SALUS』2016年から2022年まで、77回に渡っての連載をまとめたものだそうだ。
内容は、時間について、旅について、詩や哲学、人生論など多岐にわたる。
どのテーマについても、著者の専門分野を通して語っているのがおもしろく、文学も哲学も物理学も広く繋がっていく。物事を観たり考えたりするにあたって、とっかかりの引き出しを多く持っていれば、視界もより広がるものみたい。


たとえば、「サンタクロースはほんとうにいるの?」
1897年、ニューヨークの新聞『ザ・サン』に載った、八歳の女の子バージニアからの問いかけに対する「いますとも、見えなくても」という答えは有名だ。
この質問に理論物理学者だったら、こう答える、と。「(サンタクロースを)見たことないですって?」「見えるはずがありません」
計算すると、サンタクロースの一世帯当たりの滞在時間はおよそ三万分の一秒になるのだとか。だから、見えるはずはないのだと。そして、見えないことは、いないことの証明にはならないのだと。


まどみちおの詩『一ばん星』も、「"見えない"から"ない"ということにはならない」ことをうたっている。
金子みすゞも『星とたんぽぽ』で「見えないけれど あるんだよ」と歌っている。
「日常のふとした情景のなかに科学の芽がひそんでいる」と著者はいう。


わたしたちは、現在、という点の上に立って、未来や過去を見ている。でも、考え方をかえて、未来の一点から現在をふりかえって眺めることはできないだろうか、と著者はいう。たとえば、そこにいるはずの未来の自分の立場から、現在を振り返ってみたら、どんな風に見えるだろうか。どんな気持ちになるだろうか。


このショートエッセイの連載が始まった頃、著者は悪性の稀少癌に罹患し、主治医から余命五年と宣告されたそうだ。
死を目前につきつけられながら、著者は、この星に「生きる」理由を書く。この本を読む私たちに向けて。
「私は「生きる」ということはあなたの物語をつくることだと思っています」という言葉で、私たちを励ます。

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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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