書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

かもめ通信
レビュアー:
自らを「血統書をもっているようなふりをする一匹の犬なのだ」というモディアノの自伝
巻末の訳者あとがきや資料を除いた本篇だけなら120ページほどと比較的薄いこの本は、2014年にノーベル文学賞を受賞したモディアノが2005年1月に刊行した自伝 Un Pedigree の全訳だ。

ユダヤ人で何とも怪しげな事業家の父と、子どもたちを放り出して巡業に出かけたり、遊び歩いたりする売れないベルギー人女優の母は、ドイツ占領下のパリで知り合った。

自らを血統書をもっているようなふりをする一匹の犬なのだというモディアノ。
きちんとした階層とはまったく縁がないあまりにあてどなく、あまりにアヤフヤな両親のもとに生まれた彼は、流砂のなかになんらかの痕跡や目印を見つけることを試みる。

文中に登場する沢山の人名については、巻末の一覧にまとめられていて、これがなかなか壮観なので、読んでいる途中で人混みに酔いそうになったなら、この一覧を覗いてみるのもいいかもしれない。

写真付の略年譜も充実しているのでこちらも参考になるだろう。

だがそうやって、一つ一つの出来事を丁寧に読み解こうと努力しなくても、淡々とページをめくっていくのがいいような気もする。
なにしろ作家自身が言っている。

 弟リュディとその死をのぞけば、ここで触れることはすべて深いところではわたしには関係ないと思っている。だから、これらのページを調書や履歴書を書くように記しているのだ---つまり資料として、また、まちがいなくわたしのものではなかったひとつの人生にケリをつけるために。(p45)

読み進めていくうちに、子どもに背を向けて遠ざかっていく親の後ろ姿や、いまではすっかり変わってしまったというパリ6区界隈の様子など、モディアノの作品の中にたびたび登場するモチーフがそこここに顔を出す。

少年時代の思い出語りは時に苦しくなるほどの寂しさを感じさせるが、コレットの 『青い麦』を読んだために何日間かの停学処分を受けたり、それでも他の生徒には禁じられていた『ボヴァリー夫人』を読む特別な許可を得ることが出来たり…といった読書遍歴やレーモン・クノーとの交流など、文学ネタにも興味深いものがあった。
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

参考になる:35票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『血統書』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ