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三太郎さん
三太郎
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ピアニストの青柳いづみこさんによる、戦前の文人の阿佐ヶ谷会と、戦後の阿佐ヶ谷周辺の飲食店のお話。
著者の青柳いづみこさんは1950年生まれ。東京の中央線沿いの阿佐ヶ谷育ち。芸大でドビュッシーの研究で博士号を取ったピアニスト兼エッセイスト。彼女の著作はこれまでに「グレン・グールド: 未来のピアニスト」などをレビューしたことがあります。

音楽関係の著作かと期待して手に取ったのですが、この本の前半は主に戦前の阿佐ヶ谷周辺に住んだ文人達が著者の祖父の青柳瑞穂を中心に集まった阿佐ヶ谷会という親睦会が話題の中心で、後半には現代の阿佐ヶ谷周辺の飲み屋さんやレストランの情報が盛りだくさんの本でした。

戦前の文人に特に興味があるわけでもなく、阿佐ヶ谷には行ったことがないし今更行くこともできないので、僕にはちょっと肩すかしなのでしたが、後半にピアニストの高橋悠治の話が出てくるのが面白かったです。

祖父の青柳瑞穂はフランス文学者で戦前から翻訳本が多数ありました。しかし骨董品の収集癖が行き過ぎて戦後の混乱期にも翻訳の収入の大部分を骨董品に使ってしまい、生活苦のあまり著者の祖母は著者が生まれる少し前に服毒自殺したとか。祖母の自殺が原因で著者の父は祖父と絶縁状態になり、(同じ家に同居していたらしいのですが)祖父を慕って自宅に集まる阿佐ヶ谷会の文人たちと著者は一度も顔を合わせたことがなかったそうです。祖父の集めた骨董も著者は一つも持っていないとか。

著者は自分の妻を自殺に追いやるまでした祖父の骨董収集には否定的な感情を持っているようです。祖父は同時代の文人達に対してマウントを取るために骨董収集にのめり込んだと解釈しているようです。

その阿佐ヶ谷会ですが、主要なメンバーは井伏鱒二、太宰治、外村繁、木山捷平、上林暁などでしたが、僕は井伏鱒二くらいしか読んだことがありません。当時も売れている作家は井伏しかいなかったそうです。

しかしその後もこの阿佐ヶ谷会は出版編集者の間では有名で青柳瑞穂の自宅のあたりまで訪れる人もいて、最近ではTV番組で、今は著者の自宅となっている家が紹介されたりしたそうです。

後半では著者のクラシックの演奏家としての音楽事務所との関わり方が書かれています。事務所に所属しても仕事を持ってきてくれる訳ではなくて、コンサートの準備も自己責任で行い、事務所がやってくれるのは大家の先生方への案内状の送付くらいだとか。一度はその案内状を事務所が出し忘れて事務所を変えたが、その新しい事務所が破産したとか、音楽家の事務所選びは大変なようです。

高橋悠治との出会いは、それまで面識がなかった先方から急に共演しようと誘われたのだとか。でもその練習では著者と高橋の意見が合わずに著者はかりかりしたらしい。高橋は二人でのピアノ演奏ではテンポが合わなかったり音の強弱が合わなかったりする方がよいのだと主張したのだとか。

いづみこさんは相当お酒が好きなようで、阿佐ヶ谷周辺の飲み屋さんが多数紹介されています。料理も美味しそうなので、阿佐ヶ谷で飲んでみたい方には参考になるかも。ただし地図はないのでお店の場所は各自でお探しください。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:828 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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