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休蔵さん
休蔵
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ヨーロッパでは「赤ちゃんを運んでくる鳥」、日本でも「めでたい鳥」とされてきたコウノトリ。なのに、日本に住まう野生のコウノトリは絶滅の危機にまで追い詰められた。そこからの復帰の奮闘記が本書である。
 何年くらい前だろうか、兵庫県の中央付近で田んぼを歩くコウノトリを見た。
 オオサギよりはるかに大きく、黒いくちばしが特徴的ですぎにピンときた。
 そして、すぐに「こんな何でもない所にいるの?」って不思議に思った。
 でも、そこまで不思議ではなかったことが、本書を読んで分かった。
 ただ、コウノトリが令和の田んぼで歩くまでは、そうとうに努力を重ねた人たちの存在があったようだ。
 本書はコウノトリの野生復帰を試みた豊岡市役所の元職員の奮闘記だ。

 豊岡市でのコウノトリ保護運動の始まりは第二次世界大戦後にまでさかのぼるという。
 経済優先で国土改造を是とする風潮のもと、コウノトリの保護が理解を得られるわけもなく生息環境は破壊され、昭和46(1971)年には日本に定着するコウノトリは絶滅してしまったとのこと・・・
 「えっ?絶命したの?」
 わずかに残ったコウノトリを保護し、増やしていき、野生に復帰させたとばかり思っていて、驚いた。
 しかも、昭和61(1986)年には飼育されていた最後の1羽も死んだ。
 しかも、犬に追われて怪我をして、死んでしまったというのだ。
 完全な絶滅だ。
 
 昭和63(1988)年、東京の多摩動物公園で中国産のコウノトリのペアから3羽のひなが孵化した。
 また、武生市生まれも1羽も中国産のコウノトリとペアとなり、平成6(1994)年にひなが生まれた。
 後者のペアの遺伝子はいまに受け継がれているという。
 昨年、チュウゴクオオサンショウウオも特定外来生物に指定された。
 在来種の生存に影響を及ぼすため、交雑種もダメという。
 ふと疑問に思った。
 コウノトリは交雑でも良いの?
 そんなことはさておき、本書では保護の取り組みが進んでいく。

 コウノトリの野生復帰は生態系の回復も促すという。
 そもそも餌となる小動物が生きていく環境が不可欠で、その小動物を養うムシなども生きていかなければいけない。
 ただコウノトリだけの話ではないのだ。
 もちろん、完全な自然環境ではなく、人が手を加えた自然がより良いようだ。
 現役の田んぼで、しかも無駄な農薬散布がない環境が必要という。
 地元の取り組みでは、休耕田は湿地にすることもしたという。
 そんな環境回復を豊岡市が主導的に行いつつ、兵庫県も連携する。
 利便性や経済性ばかりを追求するような考え方ではとても実現できなかったコウノトリの野生復帰。
 野生に復帰したコウノトリは西日本を中心に飛び立ち、ついには海も渡ってロシアや韓国、中国にも飛来したという。
 そんな1羽を目撃としたということのようだ。
 各地でコウノトリが生息できる環境の回復が実現できれば、それは人間が生き抜くうえでも不可欠な環境に違いない。

 コウノトリの野生復帰は兵庫県豊岡市ではじまった試み。
 コウノトリは自らの力で飛び立ち、方々に拡散することができた。
 しかしながら、絶滅の危機に瀕している生物はまだまだたくさんいる。
 人間の環境破壊により絶滅の危機にまで追い詰められた数多くいる生き物を救済できるのは、やはり人間だけ。
 それは簡単な話ではないはず。
 でも、コウノトリの野生復帰は、絶滅の危機に瀕した生き物が復帰できる可能性を強く示してくれていて、読み応えのある1冊だった。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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