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かもめ通信
レビュアー:
国書刊行会の新シリーズ“アフリカ文学の愉楽”第1弾は、コンゴ共和国のとあるバーで語られる酔っぱらいたちの物語!?
 つまり、バー“ツケ払いお断り”の主人から一冊のノートを渡されたので、俺はそれを埋めなくちゃならなくなったってわけだ、彼は、この俺《割れたグラス》なら本を書けると頑なに信じていたんだ、というのも、ある日、俺が冗談まじりで、スポンジみたいに大酒を飲む作家の話なんかをしたからなんだ、

こんな出だしで始まるのは、2005年にコンゴ共和国出身の作家アラン・マバンクによって発表された小説。

冒頭のシーンで《割れたグラス》がバーの主人《頑固なカタツムリ》に、なぜそんなにこのノートにこだわるのかと尋ねると、《頑固なカタツムリ》は“ツケ払いお断り”がいつかこのままなくなってしまうのが耐えられないんだとこたえる。
この国の連中には記憶を保存しておこうという感覚がない、寝たきりの婆さんが物語を語ってくれた時代はもう終わったんだ
アフリカでは、老人がひとり死ぬと図書館がひとつ燃えたことを意味するなんてお決まりの言葉は好きじゃないと。

そんなわけで、コンゴ共和国の港湾都市ポワント=ノワールにあるバー“ツケ払いお断り”を主な舞台に、《割れたグラス》と呼ばれる男が、一冊のノートに人々の話や自分の目にしたあれこれを書きとった……それがこの物語だ。

何枚ものオムツを重ね履きした《パンパース男》、「フランス行き」が自慢の《印刷屋》、誰よりも長く放尿できるという《蛇口女》、そしてまた《割れたグラス》のあれこれと、ひと癖もふた癖もある酔っぱらいたちの奇妙な物語には、争いごともあれば、これでもかというほど下ネタも多い。
語られるエピソードは酔っ払いの戯言らしく大風呂敷のように思え、それでいてしらふでは語ることの出来ない本音が見え隠れしているよう。

それらが最後の最後まで、ピリオド(句点)がひとつもない独特の文体で書かれていて、おまけにそこかしこに、文学作品のタイトルやその内容が引用符なしでちりばめられている。

たとえばこんな感じ。
自分の性生活がタタール人の砂漠みたいになっていることはわかっている(p209)

リョサの『ラ・カテドラルでの対話』にヘッセの『荒野のオオカミ』、三島由紀夫の『肉体の学校』まで登場し、カメルーンの作家モンゴ・ペティの『任務完了』やアルジェリアの作家ラシッド・ブージェドラの『頑固なカタツムリ』などその内容が気になる作品も多い。

訳者あとがきには英語版の裏表紙に「世界文学の中から170の古典作品のタイトルが含まれている」とあるがもっとあるかもとも。

とりわけ前半部分に丁寧につけられた訳注によって、だんだんとタイトルや引用部分の見分け方が分かるような気がしてきて、気になるフレーズを書き出しながら、きっとこれもどこからか引っ張ってきたにちがいない…などと想像を巡らす。
いつかどこかでこの言葉に再会できるかもしれない…そんなことにも胸がおどる。

読み終えるまで思いのほか時間がかかったが、かけるだけの価値のある面白い本だった。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2238 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. ef2025-06-16 05:44

    来ましたね~(うほほ~い!)。そうそう、そうなんですよねっ。
    読んだ人だけに分かるこの悦楽(言い過ぎ! でもそんな感じ)。
    かもめさんのレビュー読ませていただきながらニマニマしちゃった。

    あ゛~、私のレビューが出るのは20日後になりそう(ストックを数えてみた)。
    レビューは一日、一冊を厳守しているので。
    それ以上書くと、読む側も大変でよくないと思っています(実は、私も最初ここを使い始めた時にやらかした!)。……時々、特にここはじめましての方に多いんだけれど、いきなり大量レビュー上げる方がいるじゃないですか。あれ、もったいないなぁと思っています。

  2. かもめ通信2025-06-16 06:02

    来ました、来ました!これは面白かったです。
    このシリーズの悦楽、これからも堪能したいですw

    私はこのところ投稿ペースが落ちているにもかかわらず、ストックがちっとも増えなくて…・。
    読んでいないわけではないんですけれどね……。(^^ゞ

  3. ef2025-06-16 06:29

    作中に、『サプール』って出て来ましたよね。私、NHKの番組を見る前にはこの方たちのことは全く知らなかったんですが、とても興味深い。そしてすごいな~と思ったのです。
    んで、<a href="https://www.honzuki.jp/book/304728/review/304211/"target="new">SAPEURS</a>という本を読んだらまあぶっ飛んだ。
    すごいな~でしたよ。

  4. ef2025-06-16 06:21

    あー。分かる。読んでいるけれど書けないというのは最近の私の状況でもあります。
    う~ん、ちょっと読むこと自体にも疲れたかしら? ペースは落ちてるんですよねぇ。
    まあ、そういう時期もあるさと思っているのですけれど。

    読んだけれど書きにくいというのはその本によるところはありませんか?
    私も、時々「これ、レビューしにくい(できない)なぁ」という本に当たることがあります。
    無理して書けばよいというものでもないのですけれど、気持ち悪いですよね。

    かもめさんが「ぜっこーちょー!」になる時をお待ちしております。

  5. No Image
    2025-06-16 06:31

    (コメントは消去されました。)

  6. ef2025-06-16 06:33

    ごめんなさい。上記の『SAPURE』という本のアドレスがダメです。
    あ、 もしかしてこう書けば良いんだ!

    https://www.honzuki.jp/book/304728/review/304211/

  7. かもめ通信2025-06-16 06:45

    ほう!ほう!ほう!!これ↓ですね!
    (ぶら下がりコメントのリンクはURLだけではれますよ)

    あ、朝ご飯食べているうちに修正されていたww

  8. かもめ通信2025-06-16 06:52

    確かにレビューしにくい本というのもあるし、
    これは書かなくてもいいかな…という本もあるのですが(^^ゞ

    ぶっちゃけ、レビューを書く楽しみ…みたいなものが減ってきているというか…。

    まあ、ぼちぼちやります。

  9. No Image

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