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献本書評
休蔵さん
休蔵
レビュアー:
『リング』、『らせん』の著者である鈴木光司による小説。ホラーテイストを漂わせる前半とは裏腹に、後半は雄大なSF仕立てとなる。一見すると荒唐無稽のようであるが、科学的な知見が話を支え、読み応えがあった。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 物語は静かに始まった。
 南極の氷床におけるボーリング調査。
 掘り下げた深度は三千メートルで、長さ四メートルもの氷の棒が摘出された。
 最初の登場人物は、南極の氷を知人たちに贈る役割を果たした。
 なんということのない光景は、氷のなかに謎の微生物がいてパンデミックの発生を予感させたが、そんな素人発想ではないストーリー展開となる。
 
 次の場面で主人公の一人である前沢恵子が登場。
 ダブル不倫の結果、出版社を追われるように退社した恵子は、探偵として生計を立てている。
 いや、生計を立てられるほどではなく、不倫相手の依頼を涙して受けるくらいの状態に陥っていた。
 依頼内容は亡くなった息子の娘、つまりは孫娘を探すというもの。
 それも戸籍上は生後1週間で亡くなっていることになっている孫娘を。
 この人探しは、南極の氷の謎と絡み合いながら、人類の存亡と関わる一大事へと発展することになった。
 依頼を何とか解決させようと苦慮する恵子は、何者かの“意思”に導かれるように奔走していく。
 やがてその“意思”の意図に気付くことに。
 
 本書の著者は『リング』や『らせん』でジャパニーズホラーの確立に大きく寄与した鈴木光司。
 『リング』を最初に読んだのは高校生の頃だった。
 まだ映画化もされていなければ、文庫化すらされていない段階。
 いつも面白い小説を紹介してくれる友人から借りて読んだそれは、睡眠不足をもたらしてくれたことを覚えている。
 本書の見せた静かな始まりは、『リング』のような急展開のスタートとは異なるものであったが、一気に読ませてくれる面白さを持っていた。
 一見チープそうなストーリー展開を思わせたのは、序章だけ。
 多少のホラーテイストは、やがて雄大なSF展開を遂げていく。
 最終的にたどり着いた行き先は、『ループ』のような雄大な荒唐無稽さを思わせた。
 ただし、さまざまな科学的な知見を下敷きにした荒唐無稽さは、けっして笑い飛ばせるような印象ではなかった。

 ところで、本書の最終場面、恐ろしい“災害”が静かに迫るなか、人々の行動は大きく2つに分かれる。
 我先と逃げ出す者もいれば、その場に留まる者も一定数存在するという設定が描かれる。
 その考え方の違いは、完全なる絶滅からの回避の鍵と示唆される。
 逃げ出すことが是か、それとも留まることが是か。
 その二者択一だとしても、片方は生き残る。
 それは生存競争の単純な原理ともいえよう。
 もしもの場面に遭遇した場合、自分だったらどんな行動を起こすのか。
 いろいろと考えるきっかけを与えてくれる1冊でもあった。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:453 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

読んで楽しい:1票
参考になる:27票
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