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紅い芥子粒
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読めども読めども、そこにあるのは荒涼とした荒野。
昭和32年に発表された小説(作者33歳)。

主人公は久木久三、19歳の若者。

久三は、満州で生まれ育った。父親はパルプ工場の技術者だったが、久三が生まれると間もなく死んでしまった。母親は、工場の寮母になって、久三を育てた。

日本が戦争に敗けたのは、久三が16歳のときだった。
満州はたちまち無政府状態となり、混乱に陥った。
久三の母親は、その混乱の中で流れ弾に当たって大ケガをする。
八路軍か、ソ連軍か、国民党軍か、どこかの軍隊が乗り込んでくる前に、寮に住んでいた日本人は逃げ出したが、重態の母親を抱えていた久三は、とどまるしかなかった。

寮はソ連軍に接収され、まもなく母親は死んだ。
久三は、寮の一部としてソ連の軍人と暮らすようになり、三年が経った。
満州は内戦状態が続いている。ソ連の軍人たちに虐待されているわけではなかったが、明日のことはまったくわからない。満州に日本人はお呼びではないことはたしかだ。教科書でしか知らない日本に、久三は帰りたいと思う。日本へ帰っても頼るべき親戚もないのに。

少しのお金とわずかな手荷物を持って、久三は、見たこともない故郷をめざす。
乗り込んだ汽車で、通信工作員を自称する汪と名乗る男と出会い、道連れになった。

八路軍と国民党軍とソ連軍が入り乱れる満州で、列車は平穏には走らず、久三たちは、満州の荒野に投げ出されてしまう。

氷点下40度にもなる荒野をさまよう久三と汪。
汪は途中で高と名を変え、いよいよ怪しく、うさんくさい。

二人は、食べ物もろくになく、オオカミの遠吠えにおびえ、人に出会うまでの10日間、凍傷になりながら凍土の上で寝た。死ななかったのは小説だからで、現実だったら三日目ぐらいには死んでいただろう。

読めども読めども、そこは荒涼とした荒野。
あまりにも苛酷で殺伐としていて、読み疲れてしまった。


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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:560 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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