三太郎さん
レビュアー:
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物理学の初心者が場の量子論の初歩を学ぶには最適です。キモは真空のもつゼロ点振動という通常は見ることができない不思議なエネルギーです。
2013年に上梓されたこの本もヒッグス粒子発見に合わせて出されたみたいだ。しかしブルーバックスらしく、場の量子論の基礎から説いて、弱い力とヒッグス粒子の存在理由を分かりやすく解説してくれている。
場の量子論の説明は、量子論の不確定性原理と真空のエネルギー(ゼロ点振動)の解説から始まる。
電磁場や、核内の強い力や弱い力の元はゲージ場と呼ばれるが、ゲージ場から生じる光子(電磁場)やグルーオン(強い力)やウィークボソン(弱い力)が仮想粒子として素粒子間を行き来し相互作用が生じるとされている。
この仮想粒子を生み出すのが真空のエネルギーだ。時間の不確定性Δtとエネルギーの不確定性ΔEの積が一定値になるという不確定性原理により、tが極短時間であればEは極めて大きな値を取りうるので、何もないはずの真空から高エネルギー粒子(仮想粒子)が飛び出し、短時間で真空の中へ消える。
ヒッグス粒子も真空中に偏在するヒッグス場から生まれる仮想粒子であり通常は見ることができないが、加速装置を用いて加速された高エネルギー粒子同士の衝突により、ごく短時間なら仮想でないヒッグス粒子が現実の世界に現れるという。短時間なのは、エネルギーが高い状態は不安定なためヒッグス粒子はこの世に生まれてすぐに崩壊してしまうからだ。
ところで、場の理論によると、場の粒子は本来は質量をもたないはずであった。電磁場から生じる光子や強い力(核力)の場から生じるグルーオンは重さがないから理論通りだったが、弱い力の場から生じるウィークボソンは重さがある。それは何故かが問題だった。
まず電磁場と弱い力を統一する電弱理論が考えられた。光もウィークボソンもどちらもスピンが1の粒子でボーズ統計に従うのは同じだ。しかし光子には重さがないが、ウィークボソンには重さがあった。
そこで考え出されたのがヒッグス場で、ヒッグス場によってウィークボソンには重さが生じたという。
宇宙がビッグバンにより誕生した直後はまだヒッグス場はなくて素粒子には重さがなかった。宇宙が膨張し冷えてくる途中で、ある時「真空の相転移」が生じ、自発的な対称性の破れが生じた。対称性の破れというのは、左回りスピンと右回りスピンに働く力が同じでなくなるということだ。
真空の相転移が極低温の金属で起きる超伝導と類似していることに気が付いたのが南部陽一郎博士だった。
超伝導は本来はフェルミ粒子である金属中の自由電子が、「クーパー対」というペアになってあたかもスピンが0のボソンの様に振舞うことから生じるのだが、真空でも相転移するとスピンが0の「粒子ー反粒子」のペア(南部-ゴールドストン粒子)が生じてボソンのように振舞い、本来は重さのなかったフェルミオン(クォーク、電子やニュートリノ)がこの粒子ー反粒子ペアを「食う」ことで重さを獲得する。
この南部の論文に触発されたヒッグスら複数の研究者が考えたのがヒッグス場だった。このヒッグス場によってウィークボソンが重さを獲得したという。このメカニズムは、ウィークボソンが真空の相転移後に現れた南部ーゴールドストン粒子を食うことによって重さを獲得すると説明できる。
真空の相転移を理解するのは難しいですね。ゲージ理論をもう少し勉強したら少しは解るかもしれません。
場の量子論の説明は、量子論の不確定性原理と真空のエネルギー(ゼロ点振動)の解説から始まる。
電磁場や、核内の強い力や弱い力の元はゲージ場と呼ばれるが、ゲージ場から生じる光子(電磁場)やグルーオン(強い力)やウィークボソン(弱い力)が仮想粒子として素粒子間を行き来し相互作用が生じるとされている。
この仮想粒子を生み出すのが真空のエネルギーだ。時間の不確定性Δtとエネルギーの不確定性ΔEの積が一定値になるという不確定性原理により、tが極短時間であればEは極めて大きな値を取りうるので、何もないはずの真空から高エネルギー粒子(仮想粒子)が飛び出し、短時間で真空の中へ消える。
ヒッグス粒子も真空中に偏在するヒッグス場から生まれる仮想粒子であり通常は見ることができないが、加速装置を用いて加速された高エネルギー粒子同士の衝突により、ごく短時間なら仮想でないヒッグス粒子が現実の世界に現れるという。短時間なのは、エネルギーが高い状態は不安定なためヒッグス粒子はこの世に生まれてすぐに崩壊してしまうからだ。
ところで、場の理論によると、場の粒子は本来は質量をもたないはずであった。電磁場から生じる光子や強い力(核力)の場から生じるグルーオンは重さがないから理論通りだったが、弱い力の場から生じるウィークボソンは重さがある。それは何故かが問題だった。
まず電磁場と弱い力を統一する電弱理論が考えられた。光もウィークボソンもどちらもスピンが1の粒子でボーズ統計に従うのは同じだ。しかし光子には重さがないが、ウィークボソンには重さがあった。
そこで考え出されたのがヒッグス場で、ヒッグス場によってウィークボソンには重さが生じたという。
宇宙がビッグバンにより誕生した直後はまだヒッグス場はなくて素粒子には重さがなかった。宇宙が膨張し冷えてくる途中で、ある時「真空の相転移」が生じ、自発的な対称性の破れが生じた。対称性の破れというのは、左回りスピンと右回りスピンに働く力が同じでなくなるということだ。
真空の相転移が極低温の金属で起きる超伝導と類似していることに気が付いたのが南部陽一郎博士だった。
超伝導は本来はフェルミ粒子である金属中の自由電子が、「クーパー対」というペアになってあたかもスピンが0のボソンの様に振舞うことから生じるのだが、真空でも相転移するとスピンが0の「粒子ー反粒子」のペア(南部-ゴールドストン粒子)が生じてボソンのように振舞い、本来は重さのなかったフェルミオン(クォーク、電子やニュートリノ)がこの粒子ー反粒子ペアを「食う」ことで重さを獲得する。
この南部の論文に触発されたヒッグスら複数の研究者が考えたのがヒッグス場だった。このヒッグス場によってウィークボソンが重さを獲得したという。このメカニズムは、ウィークボソンが真空の相転移後に現れた南部ーゴールドストン粒子を食うことによって重さを獲得すると説明できる。
真空の相転移を理解するのは難しいですね。ゲージ理論をもう少し勉強したら少しは解るかもしれません。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:講談社
- ページ数:0
- ISBN:B00M7UT782
- 発売日:2013年10月20日
- 価格:1210円
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