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くにたちきち
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これまで、イスラエルとパレスチナの問題には、多くの本が出されていますが、どちらかの立場であるのが、ストレスになっていたように感じていましたが、この本は、客観的な視点から書いた本ではないかと思います。
この本の原作者は、1945年、旧ソ連生まれで、大学で化学や科学史を学び、1973年にソ連を出国後、イスラエルを経て、カナダ・モントリオールに移住し、モントリオール大学の、科学史・科学社会政治学研究所に勤務し、その後、同大学の歴史学の教授となっているのだそうです。中でも、ユダヤ教、シオニズムおよびイスラエルに関する業績は、とりわけよく知られているとのことです。

この本は、「植民地主義的なシオニストの夢は一貫して、相互の尊重に基づく共存と平和を求めるよりも、パレスチナ人を丸ごと厄介払いすること」であることが、イスラエルがパレスチナ人に対する戦争の本質であるということを、歴史地理学的に具体的に示そうとした本のようです。

このような蛮行を行っていることに対して、米国は公然たる共犯者であり、米国が供給している武器弾薬がジェノサイドに用いられていると指摘しています。また、このことに二番目に大きな責任を負っているのは、ドイツであり、ドイツはユダヤ人とイスラエル、ユダヤ教とシオニズムを混同して行動していると述べています。

ユダヤ人のシオニズムは、次の四つの主な目的を追求している、ヨーロッパ的なナショナリズム運動であると、筆者は言います。

⓵ トーラーを中心としたユダヤ人の諸国民横断的なアイデンティティを他のヨーロッパ諸国民と同様のナショナル・アイデンティティに変えること。
⓶ 新しい自国語、すなわち聖書とラビのヘブライ語に基礎を持つ国語を発展させること。
③ ユダヤ人をその出身国からパレスチナに移住させること。
④ パレスチナに政治的、経済的支配を確立させること。

そして、ヨーロッパの他のナショナリズムが、自国の政治的、経済的支配のための闘争に集中するだけでよかったのに対し、シオニズムが取り組もうとしたのは、①から③までの目的を同時に実現しようという、より大きな挑戦であり、当時の大半のユダヤ人に忌避されたことは怪しむに足りません、と述べています。

現在の、ガザの破壊を正当化する論理の大本は、ナチスによるジェノサイドに対するシオニスト的解釈であり、イスラエルの主流の言説によれば、パレスチナ人の置かれている事情は、ナチスがユダヤ人憎悪に駆り立てられていたのと寸分違わないことになると、筆者は言います。

イスラエル軍が、この数か月間に投下した爆発物の量、それによるパレスチナ側の死傷者数、犠牲者のなかの民間人と軍人の比率をみると、これらは、ウクライナにおけるロシアの二年間の記録を上回っていることを挙げて、西側諸国の経済制裁などがダブルスタンダードになっていると述べています。

「訳者のあとがき」によれば、現在世界各地で多くのユダヤ人が、ガザの即時停戦、占領の終結、パレスチナの開放を求めてイスラエル批判を強めていますが、その背景にユダヤ教の伝統とシオニズムの間の元々の対立の深さが認められることを指摘しています。しかし、そのことを理解するのは至難の業というべきでしょう。

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くにたちきち
くにたちきち さん本が好き!1級(書評数:778 件)

後期高齢者の立場から読んだ本を取り上げます。主な興味は、保健・医療・介護の分野ですが、他の分野も少しは読みます。でも、寄る年波には勝てず、スローペースです。画像は、誕生月の花「紫陽花」で、「七変化」ともいいます。ようやく、700冊を達成しました。

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