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ぽんきち
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手堅く読ませる法医学ミステリ
著者は、臨床検査技師免許を持ち、法医学教室で解剖技官を務めるという、ちょっと変わった経歴。
それが遺憾なく発揮されている本連作。
主人公は秋田医科大学の法医学教授である上杉永久子(とわこ)。語り手は上杉教授の教室に所属する博士課程院生の南雲瞬平。
タイトルの「イシュタム」の由来はなかなか出てこないが、中盤以降で南雲が説明している。マヤ神話に出てくる、「自殺を司り、死者を楽園に導く女神」のことだという。

収録作は5話。
いずれも検死のため、永久子の元に運ばれた遺体の解剖から、事件の背後にある意外な事実が現れる形式。
火災後に発見された老夫婦と思われる二体。
食中毒で倒れた家族。
乳児の不審死。
かつて、南雲の親友だった男との思い出。
夏祭りでの複数の原因不明死。

著者の職業柄、解剖シーンは詳細なのだが、過度に生々しくはない(このあたりは読者によっては受け入れにくい人もいるかもしれないが)。永久子らの死者に対する敬意も描かれており、解剖の知識に対しても信頼が置け、安心して読める手堅さがある。
事件のトリックや真相はあっと驚くようなアクロバティックなものではなく、現実と地続きで、こちらも手堅い印象。

著者がこの連作をさらに続けるのかどうかはわからないが、本書の範囲では、永久子が「イシュタム」と呼ばれるべきであるほど、各事件が自殺寄りのものであるようには思えない。
南雲と永久子はそれぞれに過去に起きた重い出来事を背負っており、それには自殺が絡んではいる。南雲の方は本作中で明らかになるが、永久子の抱える過去の真相は不明のままである。もし、続編があるのであれば、そちらの方も描かれてほしいところだ。

舞台は秋田なのだが、著者は秋田出身なのだそうで、風景描写の美しさは郷土愛の賜物か。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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