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たけぞう
レビュアー:
サイバー小説短篇集。
著者の作品は、海外を題材にとったものに印象的なものがあります。表紙の絵も気に入ったので、読むことにしました。

サイバー小説でした。そういうジャンルはないのですが、SF小説とくくるとミスリードしてしまうのです。著者の提示した作品世界観は次のものです。無政府的と揶揄されるような仮想社会、SNSのアプリ開発、現実逃避としての3Dヴァーチャルプログラム、暗号通貨など、四作品があります。あとの二作品は、サイバー小説から少し外れますが、その前の四作品でわたしは胸やけしてしまいました。

著者は文章力があるので、サイバー的題材にはまる人からは強い支持が得られるでしょう。とてもリアルで、近未来のディストピアが広がっています。なにかの文学賞にふさわしい個性の強さと説得力があるのですが、一方で文学賞はこういうサイバー世界にアレルギーがあるものが多い気がするので、評価が高まればいいと思うのですが。

あとがきが、かなり詳しく書かれていて読みごたえがあります。著者が何に興味を持ち、何を狙って書いたのか、視点が分かって面白いですね。なかでも、生成AIを使った作品に対する解説が目を引きました。SFマガジンの企画です。小川哲さんも同じ企画に参加し、著者の前に作品を発表しています。その時の経験談をもとに、著者はAIを使いこなしてやるという意気込みで取り組んだようです。著者が実際に書いたのは5%程度とのことです。しかし、小説のプランをしっかり考えて取り組んでいるので、すなわち生成文書の根幹は著者によるものですから、単純に5%だけが書かれたものではないのです。

なるほどです。サイバーに強い著者ならではの御し方で、AIの特性をうまく利用できているようです。AIの仕組みは、乱暴な言いかたですが、基本的にはビッグデータからのつぎはぎなので、自律型人工知能とは根本的に異なるものです。それでもなお、著者の書いた文章に続く一文として、予想を超えたものを提示されて驚いたようです。

うつ病の傾向があり、廃業すら考えた日もあったそうです。ネパールやインドを旅したのも、自分のこころへの向き合いかたとして著者がこれまで対処してきた方法なのでしょう。著者の外国が舞台の作品は、こういう背景があったのだと知れたことは収穫でした。てっきり、商社マンの経験でもあるのかと思うくらい、海外に明るい人だと思っていましたので。

自らのことを虚弱な文化系人間とも書いています。意外な感じを持ちつつも、本編を連想させるディープなサイバー世界にはまっていたようですし、いろいろな葛藤があったこともあとがきに書いてあります。著者の世界観を知るのに、非常に重要でした。

繰り返しになりますが、本編のあくの強さは相当です。それも含めて、ご興味ありましたらどうぞご一読を。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
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