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かもめ通信
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控えめに言ってもこれ最高!!いろいろな要素がこれでもかというぐらい盛り込まれているのに、細部まで丁寧に描かれていて読み応えたっぷり!
時は19世紀。
大英帝国は産業革命により繁栄し、さらなる富と力を求めてその手を世界に広げつつあった。
その動力となったのは蒸気機関の開発……ではなく、銀の棒に刻まれた「言葉」、異なる二つの言語における単語の意味のずれから生じる翻訳の魔法だ。

英語とは大きく異なる言語を求めて広東から連れてこられた中国人少年ロビンは、オックスフォード大学の王立翻訳研究所、通称バベルの新入生となり、言語のエキスパートになるための厳しい訓練を受ける。

同期は、ウルドゥー語とアラビア語とペルシャ語を得意とするカルカッタ出身のムスリムの少年ラミーと、フランス語とハイチのクレオール語を得意とする黒人の少女ヴィクトワール、フランス語とドイツ語を得意とする白人の少女レティの3人だった。

 のちにすべてが横道に逸れ、世界が半分に割れたとき、ロビンはこの日のことを、このテーブルでのこの時間のことを思い返し、なぜ自分たちはこんなにも性急に、こんなにも不注意にたがいを信頼しようとしたのだろう、と不思議に思うことになる。なぜ自分たちがたがいに傷つけあうかもしれない無数の可能性を見ようとしなかったのだろう?なぜ立ち止まって、みずからの生まれや育ちの違いを突き詰めてみなかったのだろう?自分たちがおなじ側にはいないし、けっしておなじ側にはなれないということを意味していたのに。(p134)

最初から暗示されている悲しい予感。
だが今は、初めて得た友達に夢中になり、たがいに切磋琢磨する。
奨学金をもらう寮生活。
勉強はげっそりするほど大変だったが恵まれた環境であることは確かだった。

もっとも一歩研究所の塔を出れば、そこには純然たる差別が存在し、ラミーはたびたび入店を断られ、女生徒は…白人であるレティでさえも嫌がらせを受けることも。

そしてまた、大英帝国が世界各地から資源としての銀だけでなく、人材や言葉までも搾取して、裕福で権力を持つ人間のためだけに使っているという現実も。

ロビンにそうした矛盾をより鮮明に突きつたのは、密かに接近してきた異母兄グリフィンだった。
かつては自身もバベルに所属していたグリフィンは、地下組織「ヘルメス結社」のメンバーで、バベルから銀や文字を刻む道具を盗んで、本当に必要とされる世界に再分配しているというのだ。

グリフィンのいうことに耳を傾けながらも、バベルでの豊かな暮らしも捨てきれないロビンに転機が訪れるのは、教授に引率されて同期とともに広東に向かったときのことだった。

「夜明けを表す漢字のことを考えていた」ロビンは正直に答えた。故郷に戻ってきたという事態の重大さに浸っていられなかった。言語という身近な気晴らしに集中しないかぎり、自分の思考はあちこちに飛び散って、抑制を失ってしまいかねなかった。「dan。こんな形だ」ロビンは中空にその文字を描いた--「旦」。「上にある部首は、太陽を表す--ri」ロビンは「日」と描いた。「それにその下には、線がある。とても単純だからこそ美しいと考えていたんだ。ほら、これは最も直接的なピクトグラフィーの使い方だ。なぜなら、夜明けとは、水平線からちょうど太陽が昇ってきたところなんだから」(p422)


再び故郷に足を踏み入れたロビンが目にしたのは、大量のアヘンとそれに毒されていく人々で…。

ファンタジー&歴史改変スペキュレイティブ・フィクション。
胸が熱くなるような友情の物語であり、あれこれ考え込まずにはいられない植民地問題や利潤追求や搾取の仕組みに言及する社会派の物語であり、翻訳の魅力と苦労を語りあげる読み応えのある翻訳論でもあって……。

上巻を読み終えた時点で思わずつぶやいた。
「控えめに言ってもこれ最高!!いろいろな要素がこれでもかというぐらい盛り込まれているのに、細部まで丁寧に描かれていて読み応えたっぷり!」

大いなる期待を抱いて下巻へGO!
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2231 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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