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ときのき
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愛を求める孤独な人々の奇妙な寓話
 アメリカのうらぶれた田舎町、あるものといっては綿紡績工場くらいといったこの町に、“カズン・ライモン”と名乗るおどおどした“せむし”の小男が現れ、ただ一軒のカフェの店主、ミス・アミーリアを親戚だといってたずねる。かつての破綻した十日間の結婚生活以降、一人暮らしをつづけていたミス・アミーリアだったが、周囲の予想とは裏腹に小男を受け入れ、共同生活を始める。やがて二人のカフェは町の人々から愛され、繁盛するようになっていくのだが、刑務所にはいっていた前夫マーヴィン・メイシ―が町に帰ってきたことから、すべてが変わってしまう。

 村上春樹によるマッカラーズの新訳三冊目だ。奇妙な三人の男女の不可思議な三角関係とその終わりが描かれる。
 人を惹きつける話術を持った“せむし”のカズン・ライモンと、188センチ超の長身で優れたボクサーであるミス・アミーリアのきずならしきものが観察され、カフェが町の住人にとっての中心的存在になっていく前半部、かつてミス・アミーリアによって文字通り叩き出されたハンサムな前夫の再来によって変容するふたりの関係と、やがて訪れる運命の決闘(!)へといたる後半部。突き放したような残酷で異様なユーモアと、整理され切らないでこぼこしたドラマ、訳者が語るところの三人三様の“愛を求める真摯な心の有様”が強い印象を残す。
 人物は距離を置いて外側から語られ、内面を安易に提示することはなく、彼らの行動原理はピタゴラスイッチ的な素朴さによって支配されているように見えるが、その衝動の源は理解の外にあり続ける。親密な関係を求める心の動き、拒絶された怒り、もはや離れてしまった心をつなぎ留めたいという儚い願い、といったものが恐らくは彼らをつき動かし、“え?”といいたくなるような過剰な行為へと導く。解釈はあれど説明はなく、とはいえ読者にとっては呑み込まざるを得ないような、ある強度を持った“現実”が物語の力によって現出する。よくできた小説だ。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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