星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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リストラ断行の続く現代は第二の明治維新である
リストラなんて、したくない。ましてや、される側なぞ、まっぴらだ。
「生まれ落ちた時から、武士は武士」
これが、浅野内匠頭の師・山鹿素行の教えである。
この文は、「なんでそうなの?」とか「武士になるのは嫌」
という疑問や拒絶をはね返す強さを持っていた。
生まれた時から武士達は、その言葉を物差のように背中に差し込まれて
生きてきた。
ところが突然、武士自体、存在しないのだと物差を抜き取られてしまう。
明治維新で心棒を抜かれてへなへなとなった彼等は、まるでクラゲだ。
クラゲならば、海へ戻ればよい。けれど彼等は人間だ。
食べてゆくため、働かなければならない。だが、今までの経験は邪魔にこそなれ、全く役に立たない。
一からのスタートという事になる。お上の都合で社会のシステムも
価値観も変わってしまった。そして決して元には戻らない。
自分より年の若い者、
身分の低かった者達の言う事を聞かなければならない毎日は、
彼等のプライドをいたく傷つける。
消え行く前時代の残映を眺める元武士達は、リストラが頻繁に
行われる現代に、やっとの事で生きている中高年に重なる。
築地の旅籠に宿泊した女1人、男2人が死体で発見された。
あっさりと過去の栄光を捨てて出発を始めた者、新人類として活躍する若者、
新システムへの反乱を企てる者、その反乱を利用して旧世代の一掃を
図る者。現代になぞらえて登場人物を見る事ができる表題作をはじめ、
直木賞受賞作「東京新大橋雨中図」の主人公小林清親が再登場する
「影男」他「供先割り」 を収録。
「影男」で「政府」を「てき」と読ませる杉本氏は、もちろん割を食った庶民側の心強い味方である。
杉本章子作品
東京影同心
おすず―信太郎人情始末帖
「生まれ落ちた時から、武士は武士」
これが、浅野内匠頭の師・山鹿素行の教えである。
この文は、「なんでそうなの?」とか「武士になるのは嫌」
という疑問や拒絶をはね返す強さを持っていた。
生まれた時から武士達は、その言葉を物差のように背中に差し込まれて
生きてきた。
ところが突然、武士自体、存在しないのだと物差を抜き取られてしまう。
明治維新で心棒を抜かれてへなへなとなった彼等は、まるでクラゲだ。
クラゲならば、海へ戻ればよい。けれど彼等は人間だ。
食べてゆくため、働かなければならない。だが、今までの経験は邪魔にこそなれ、全く役に立たない。
一からのスタートという事になる。お上の都合で社会のシステムも
価値観も変わってしまった。そして決して元には戻らない。
自分より年の若い者、
身分の低かった者達の言う事を聞かなければならない毎日は、
彼等のプライドをいたく傷つける。
消え行く前時代の残映を眺める元武士達は、リストラが頻繁に
行われる現代に、やっとの事で生きている中高年に重なる。
築地の旅籠に宿泊した女1人、男2人が死体で発見された。
あっさりと過去の栄光を捨てて出発を始めた者、新人類として活躍する若者、
新システムへの反乱を企てる者、その反乱を利用して旧世代の一掃を
図る者。現代になぞらえて登場人物を見る事ができる表題作をはじめ、
直木賞受賞作「東京新大橋雨中図」の主人公小林清親が再登場する
「影男」他「供先割り」 を収録。
「影男」で「政府」を「てき」と読ませる杉本氏は、もちろん割を食った庶民側の心強い味方である。
杉本章子作品
東京影同心
おすず―信太郎人情始末帖
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:0
- ISBN:9784163156705
- 発売日:1995年07月01日
- 価格:288円
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