書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

祐太郎さん
祐太郎
レビュアー:
武士に忠義があるならば、足軽・町人・女には意地がある。
私は落語が好きである。落語にも仮名手本忠臣蔵を題材にした噺がある。赤穂義士伝ではなく、仮名手本忠臣蔵である。タイトル通りの「四段目」や「七段目」、五段目の定九郎を劇的に変えた「中村仲蔵」、澤村淀五郎の判官切腹場面に迫った「淀五郎」が代表例である。

岩波文庫で原文にあたったこともあるけれど、江戸古典の独特な言い回しに感情移入できぬまま終わっていた。

そんななか、河出文庫があの松井今朝子訳で現代語訳を出したというので早速買ってみた。確かに意訳もあるけれど、21世紀の私にはこれぐらいの方が感情移入できる。
21世紀の私たちには20世紀の死語の方がちょっとしっくりくるのである。三段目。勘平・お軽は「アレする」「コレする」と言い合います。ああ、こんな言い回し、懐かしい。

読みやすいので改めて筋を客観的に追える。そうすると見えてくるのが、武士に忠義があるならば、足軽・町人・女には意地があるということである。そこに見えるのは武士の特権意識であり、その一方う武士なんて何物するぞという大阪文化が垣間見える。

七段目では、足軽の寺岡平右衛門の忠義は義士たちに信じてもらえず、お軽の行為をネタに大星由良之助が度が過ぎるほど責めて、それにも動ぜずお軽に死んでもらうとしてようやく疑いが晴れる。
十段目では、一人を除いて奉公人を召し放し、妻も実家に帰したというのに天河屋義平の忠義もやはり信じてもらえず、最後は「天河屋の義平は男でござる」と言わしめて、ようやく信じてもらえる。
一方、八段目・九段目では、大星由良之助の息子・力弥の許嫁・小浪と母戸無瀨は、父・夫の赤垣源蔵の目を盗んで力弥と結ばせるべく京都へ二人で上がる(海道の名所旧跡を入れ込んだ現代訳も見事)。

武士や町人である前に、男であり、女なのである。

表現の自由が制限された江戸時代。建前上、武士の忠義を前面に出しながら、その裏に見え隠れる大阪町人の本音。これは本当に面白い。しばらく、河出文庫の古典新訳コレクションを読み進めたいと思う。

お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
祐太郎
祐太郎 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2351 件)

片道45分の通勤電車を利用して読書している
アラフィフ世代の3児の父。

★基準
★★★★★:新刊(定価)で買ってでも満足できる本
★★★★:新古書価格・kindleで買ったり、図書館で予約待ちしてでも満足できる本
★★★:100均価格で買ったり図書館で何気なくあって借りるなら満足できる本
★★:どうしても本がないときの時間つぶし程度ならいいのでは?
★:う~ん
★なし:雑誌などの一言書評

※仕事関係の本はすべて★★★で統一します。

プロフィールの画像はうちの末っ子の似顔絵を田中かえが描いたものです。
2024年3月20日更新

読んで楽しい:1票
参考になる:24票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『仮名手本忠臣蔵』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ