書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

献本書評
ときのき
レビュアー:
南方の新たな冒険と、ヒーローの再定義
 かつての仲間たちから離れ、大学生となった南方はトラブルから距離を置いた淡々とした学生生活を送っていた。バイトと格闘訓練をするだけの、祭りの終わった後の退屈な日々。そんなある日、同じ学部の結城が相談を持ち掛けてくる。音信不通になった友人である北澤悠人の行方を捜してほしいというのだが――

 デビュー作『レヴォリューションNo.3』から続く【ザ・ゾンビーズ・シリーズ】13年ぶりの最新作だ。とはいえ今回は、高校時代の仲間たちは回想にしか登場しない。南方を単独の主人公として仕切り直したような一作だ。
 大学生の南方が同学部生から依頼された友人捜索は、大学の人気巨大サークルを牛耳るカリスマ学生や、彼を狙う武闘派の女子高生たち、更には裏で蠢動する反社会勢力までたどり着く。冒頭でチャンドラーが引用されていて、サークルリーダーであり魅力的な悪党の志田と南方のやりとりはまるでギャングの親玉とフィリップ・マーロウのそれだ。軽妙でファンタジックなクライムサスペンスとして設計された本作だが、南方を“卑しき街をゆく孤高の騎士”としてだけ描こうとはしていない。
 
 『レヴォリューションNo.3』所収の表題作は、おちこぼれ高校の男子生徒【ザ・ゾンビーズ】たちが、厳しい警備を突破して名門女子高の学園祭に潜り込もうとする話だ。仲間同士の絆を描いた熱い作品だが、一方で、男同士のホモソーシャルな仲良し世界に自閉していく可能性もまた感じさせた。彼らにとって女性は仲間と騒ぐためのかりそめの動機でしかなく、友情と連帯を確認して物語は終わる。このスタンスは次作『フライ,ダディ,フライ』の、暴力を振るわれた娘を理由に、復讐のためひと夏の訓練を始める父親の話にも引き継がれる。
 本作では、南方と【ザ・ゾンビーズ】が関わった過去の事件の数々が、それを見た人々にどのような影響を与えたかが繰り返し語られる。噂話になるなかで変形し、誇張され、もはや実際とはかけ離れた伝説と化した彼らの活躍譚には南方ならずとも苦笑してしまうところだが、それによって救われた人間だけではなく、英雄たちの物語が与えた負の影響も語られる。小さなことから、彼らが意識していたわけではなかったとはいえ大きなことまで、南方らが“スイッチを押してしまった”過去が落とし前を求めてくる。
 
 1998年に発表された作品で是とされたこと、それは当時の価値観からすればさほど違和感のないものではある。往時の読者であれば、“あの頃のまま”であってほしいと願いすらするかもしれない。だが四半世紀を経て、色々なことが変わった。本作は、休止していたシリーズを過去作と接続してそのまま引き継ぐことをしなかった。作品の倫理的なフォルムを点検し、ヒーローに自分の立ち位置を問い直させ、それでもなお困窮した他者を置いてけぼりにしない者として再定義した。
 シリーズが続くなら、いずれ、朴舜臣や萱野や山下やアギーら、【ザ・ゾンビーズ】のなつかしい面々とも再会できるかもしれない。新しい時代を生きる彼らはかつての万能感を失っているだろうが、現代を駆けるための、強靭で愉快な、新たな輝きを宿した物語を携えて再登場するものと期待したい。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

参考になる:23票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『友が、消えた』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ