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ぱせりさん
ぱせり
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救いようのない状況に見えたが……
あまりにリアルで深刻な問題のなかを渡っていくような読書だから、物語のなかから、解かなければならない大きな謎が現れても、これをミステリという呼び方でかたづけることができない。謎の答えを探すことが我が身について考える縁のひとつになっていく。


南アイルランドの教会を中心にした閉鎖的な小さい村。
主人公は十五歳の少女で、こんな父親ならいっそいない方がまし、と思うような父の家で、家事を切り盛りし、弟妹の面倒を見ている。
少女は、ある部分では、年齢以上の大人であることを要求されながら、ある部分は幼い子どものように無知なままほうっておかれた。


卑劣なボーイフレンドにまんまと乗せられて、十五歳の少女が妊娠する。
自分の体の中で何かが起きていることに薄々気がつくこと、疑わしいことを払拭する方法を探し求めること、それから……やがて、どんなに否定したくても否定できない事実を認めるしかなくなってくる。
その後、起こることが最後まで残酷なほど丁寧に描写される。不安と恐怖をかきたてながら。
着々と進んでいく時間の流れ(望んだ妊娠であれば、苦しいことがあったとしても、大きな喜びと期待の時間であるだろうに)のおそろしいこと。相談できる相手は誰もいない。とても一人で対処できない問題なのに、たったひとりで立ち向かわなければならないことの重たさに、ページを繰るのが辛かった。


狭い共同体だら、好奇心やさまざまな形の悪意が目につくが、彼女のことを心から気にかけてくれる大人たちも、ちゃんといる。
小さな共同体は、一言で良い悪いと言いきれるものではなさそうだ。
同時に起る良いことと悪いこと、そのどれもが、自分で選び取っていく未来への礎の一つでありうるのだ。


物語を読みながら、いろいろなことを考えていた。
最初に思ったのは、若さに張り付いた罠のような危機と、あまりに大きすぎる無知の代償のことだったが、どん底と思うような深みに沈んでも、身体をひっぱりあげようとする強くて温かい力があることへの気づき。それは、実は外からだけではなく、自分のなかから湧き上がってくるものであることへの気づきだ。
「生きているというのは、なんて喜ばしいことだろう」という言葉が心に残る。




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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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この書評へのコメント

  1. 星落秋風五丈原2025-09-09 06:14

    ぱせりさん皆さんこんにちは。亡くなられてから沢山著書が出されてますね。

  2. ぱせり2025-06-02 15:45

    星落さん、こんにちは。本当ですね。
    早くに亡くなられたのが残念です。新しい作品にはもう出会えないのは寂しいですね。

  3. No Image

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