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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
モナ・リザを修復するって!?
モナ・リザこと《ラ・ジョコンド》は、時の経過によって変色をおこしている。酸化して黄ばんだニスがコントラストを狂わせる。肖像画は年々薄暗がりの奥に沈みこみ、曇っていくばかりだ。
侃々諤々の議論のもとで、立ちあがったのが《ラ・ジョコンド》の修復。モナ・リザのニスを剥ぐ。
絶対失敗が許されない大事業の、では、そもそもこの仕事の、成功とはいったいどういうものか、と読む過程で何度も考えずにはいられなかった。


修復そのものに懐疑的なオルレアンは、ルーブル美術館の絵画部門の主任学芸員で、意志に反しているとはいえ、一連の修復事業の責任者だ。私生活においては、パートナーとの愛がおわりかけている。
《ラ・ジョコンド》周辺の騒乱とオルレアン本人の中の騒乱とを背景に、一見物静かで実直なオルレアンの、本人も気づかなかった姿が徐々に浮かび上がってくる。モナ・リザとともに、オルレアンのニスも剥いでいくようだ。


歴史の上で、人びとにとって絵画とはどのようなものだったのだろうか。歴史に名を残した数少ない天才的な修復師はどんな人だったのか。このあたり、一寸雑に読んでいたところ、これがただの蘊蓄話ではなかったことを後になって知り、あわてる。


はっと目が覚めるようなミステリアスなできごとが終盤に近いところで起きる。
そういう予兆がないとはいえなかったじゃないか、と何度もページをひっくり返してみた。
剥ごうとしたのはモナ・リザのニスだけではなかった。ニスのせいで本当の色や形に気づけなかったいろいろなもの。とりわけ、読者である私自身の偏見のニスが剥がされていくのは、なんだか気持ちがよい。


修復師とは何ものなのか、ということも読みながらずっと考えてきたことだった。優れた修復師が芸術家となる瞬間は、目が覚めるようだった。
それがラストに感じる光と混ざり合う。
そこに、一人の鑑賞者としての読者も混ぜて欲しい。それは確かに至福の時間。


登場人物のなかでひときわ忘れがたいのが、ルーブル美術館の清掃作業員のオメロ。一言でいえば、彼はこのうえなく幸福な人なのだ。身寄りもなく、友だちもいない。学もなく財産もない、定職と呼べるような仕事もなかった。だけど、それがなに? この男の人生は、このうえなく輝いている。羨ましいほど。

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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1738 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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