星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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ささやか、で済ませられない話もある
1985年、アイルランドの小さな町。寒さが厳しくなり石炭の販売に忙しいビル・ファーロングには、妻のアイリーンと、長女のキャスリーン、次女のジョーン、三女のシーラ、四女のグレイス、末娘のロレッタ、5人の娘がいた。。キャスリーンはクリスマスにリーバイスのジーンズを望み、ジョーンはクイーンのフレディ・マーキュリーに夢中だ。物語は1985年。まだ半世紀も昔ではない。時の首相、マーガレット・サッチャーは鉄の女の異名を取った。彼女は不採算の炭鉱を閉鎖に追い込もうとし、炭鉱労働者達による大規模なストが起きたのは、映画『リトル・ダンサー』などでも描かれた。強者が生き残るために、弱者を排除していた時代である。
アイルランドでも不況の嵐は吹き抜ける。石炭と木材を商うファーロングの隣人たちの間でも、解雇や犯罪による刑務所入りなど、物騒な話題が多い。ファーロングは娘たちを守り抜き、全て聖マーガレット学院に入れて良い教育を受けさせるつもりだ。そんな時、彼は町が見て見ぬふりをしていた女子修道院の〝秘密″を目撃する。修道院長は「娘ばかりで残念だ」「外国人労働者ばかりを雇い入れるのは危ない」と保守的な発言をして、娘をいい学校に入れたければ黙っていろと彼を牽制する。
アイルランドはカトリックである。中絶は認められない。だから、子沢山で貧乏だ。そのため望まぬ妊娠をした未婚の若い女性は、修道院に入った。罪を悔いるにも、ちょうど良いという理屈だろうか。妊娠は、女だけでできるわけではない。男女の性行為により起こるのに、結果を負うのは女性だけだ。それなのに、女性が、同じ女性を罰する。修道院という閉じられた世界の中で、ただでさえ弱い立場の彼女たちが頼っていける先はない。良家の子女が教育を受ける聖マーガレット学院と修道院は、壁を隔てた近くにあるのは、何とも皮肉である。
ファーロングが出せる手は二つだ。いつも出せるわけではない。第一に、彼は家族を守るだろう。それでも、父親のいない彼を援助したのが全くの他人であったように、血縁でなくても人を救える。助けられる人が助けられる人の手を、一人でも多くつかめる日が来ることを、願ってやまない。
アイルランドでも不況の嵐は吹き抜ける。石炭と木材を商うファーロングの隣人たちの間でも、解雇や犯罪による刑務所入りなど、物騒な話題が多い。ファーロングは娘たちを守り抜き、全て聖マーガレット学院に入れて良い教育を受けさせるつもりだ。そんな時、彼は町が見て見ぬふりをしていた女子修道院の〝秘密″を目撃する。修道院長は「娘ばかりで残念だ」「外国人労働者ばかりを雇い入れるのは危ない」と保守的な発言をして、娘をいい学校に入れたければ黙っていろと彼を牽制する。
アイルランドはカトリックである。中絶は認められない。だから、子沢山で貧乏だ。そのため望まぬ妊娠をした未婚の若い女性は、修道院に入った。罪を悔いるにも、ちょうど良いという理屈だろうか。妊娠は、女だけでできるわけではない。男女の性行為により起こるのに、結果を負うのは女性だけだ。それなのに、女性が、同じ女性を罰する。修道院という閉じられた世界の中で、ただでさえ弱い立場の彼女たちが頼っていける先はない。良家の子女が教育を受ける聖マーガレット学院と修道院は、壁を隔てた近くにあるのは、何とも皮肉である。
ファーロングが出せる手は二つだ。いつも出せるわけではない。第一に、彼は家族を守るだろう。それでも、父親のいない彼を援助したのが全くの他人であったように、血縁でなくても人を救える。助けられる人が助けられる人の手を、一人でも多くつかめる日が来ることを、願ってやまない。
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784152103666
- 発売日:2024年10月23日
- 価格:2420円
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