かもめ通信さん
レビュアー:
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人生はままならないことばかりだけれど、それでもわたしは生きていて、つらいことはやまほどあるけれど、いいことだってたまにはある。なにしろ、こんなお気に入りの1冊に出会えたのだから。
勤め先の小さなパン屋のカウンターに突っ伏していたら異変を感じ、自分が自分の身体を見おろしていることに気がついた。
(もしかして私、死んだのか?)と思ったが、どうやらそうではなくて、その「幽霊」は、つっけんどんな口ぶりながら、私の悲しみや罪悪感をまるごと全部共有し、隣に寄り添ってくれたのだった。(「幽霊の心で」)
触れた人間をクラゲに変えてしまうという変種のクラゲが大量発生。
社会の動揺が広がる中、食べていくために私が就いたのは、自らクラゲになりたがる人をサポートするという仕事だった。(「光っていません」)
夕暮れ時、憂鬱そうなマンゴーを買って、マンションに帰ったら、部屋には見知らぬ男がいた。
なんでもその男、前の住人の元カレだというのだが、彼女に会いたい一心で、文字通り部屋に根を生やしてしまうのだった。(「夏は水の光みたいに」)
駅前でみかけた巨大な十字架を背負った新興宗教の伝道師と目が合って気づいた。
彼女が中学時代の同級生だったことに。(「見知らぬ夜に、私たちは」)
キム・ジェヒョンがいなくなったと聞いて、僕はチョのことが心配になった。
なにしろキム・ジェヒョンとチョの付き合いは8年と、僕とのそれより長いのだから。
結局僕はチョの付き合って、上階の住人ジョンウの汚部屋を片付けながら、ヤモリのキム・ジェヒョンの捜索をすることになったのだが…。(「家に帰って寝なくちゃ」)
破綻寸前の劇団に所属し、生活費を稼ぐために監督に斡旋された役割代行の仕事をするしがない役者のあたしに舞い込んだのは、「冬眠するので、埋めてほしい」という中年男性からの依頼だった。(「冬眠する男」)
4年間勤めた小さな会社をクビになったとき、社長は私に「人と交われないことが問題だ」と言った。「次の職場では、同僚と一緒にランチでも食べてみるように」ともいっていたが、ちゃんちゃらおかしい。新たに就いた職業では、同僚と食事をする機会などこれっぽっちもない。私は殺し屋になったのだ。(「アラスカではないけれど」)
急死した人限定で本当にこの世から消えるまで100時間が提供される「死後アフターサービス」。
落下してきた看板にぶつかって死んだ私には、会っておきたいと思うような人も、やり残したこともなかった。(「カーテンコール、延長戦、ファイナルステージ」)
1995年、ソウル生まれの著者の短篇集。
収録されている8篇の物語はどれも、どこか奇妙でそのくせ違和感なく読者を取り込み、ユーモラスでありながらとても切なくて、あれもこれもありえないのに、なぜだかとてもリアルに迫ってくるものがある。
人生はままならないことばかりだけれど、それでもわたしは生きていて、つらいことは山ほどあるけれど、いいことだってたまにはある。
なにしろ、こんなお気に入りの1冊に出会えたのだから。
(もしかして私、死んだのか?)と思ったが、どうやらそうではなくて、その「幽霊」は、つっけんどんな口ぶりながら、私の悲しみや罪悪感をまるごと全部共有し、隣に寄り添ってくれたのだった。(「幽霊の心で」)
触れた人間をクラゲに変えてしまうという変種のクラゲが大量発生。
社会の動揺が広がる中、食べていくために私が就いたのは、自らクラゲになりたがる人をサポートするという仕事だった。(「光っていません」)
夕暮れ時、憂鬱そうなマンゴーを買って、マンションに帰ったら、部屋には見知らぬ男がいた。
なんでもその男、前の住人の元カレだというのだが、彼女に会いたい一心で、文字通り部屋に根を生やしてしまうのだった。(「夏は水の光みたいに」)
駅前でみかけた巨大な十字架を背負った新興宗教の伝道師と目が合って気づいた。
彼女が中学時代の同級生だったことに。(「見知らぬ夜に、私たちは」)
キム・ジェヒョンがいなくなったと聞いて、僕はチョのことが心配になった。
なにしろキム・ジェヒョンとチョの付き合いは8年と、僕とのそれより長いのだから。
結局僕はチョの付き合って、上階の住人ジョンウの汚部屋を片付けながら、ヤモリのキム・ジェヒョンの捜索をすることになったのだが…。(「家に帰って寝なくちゃ」)
破綻寸前の劇団に所属し、生活費を稼ぐために監督に斡旋された役割代行の仕事をするしがない役者のあたしに舞い込んだのは、「冬眠するので、埋めてほしい」という中年男性からの依頼だった。(「冬眠する男」)
4年間勤めた小さな会社をクビになったとき、社長は私に「人と交われないことが問題だ」と言った。「次の職場では、同僚と一緒にランチでも食べてみるように」ともいっていたが、ちゃんちゃらおかしい。新たに就いた職業では、同僚と食事をする機会などこれっぽっちもない。私は殺し屋になったのだ。(「アラスカではないけれど」)
急死した人限定で本当にこの世から消えるまで100時間が提供される「死後アフターサービス」。
落下してきた看板にぶつかって死んだ私には、会っておきたいと思うような人も、やり残したこともなかった。(「カーテンコール、延長戦、ファイナルステージ」)
1995年、ソウル生まれの著者の短篇集。
収録されている8篇の物語はどれも、どこか奇妙でそのくせ違和感なく読者を取り込み、ユーモラスでありながらとても切なくて、あれもこれもありえないのに、なぜだかとてもリアルに迫ってくるものがある。
人生はままならないことばかりだけれど、それでもわたしは生きていて、つらいことは山ほどあるけれど、いいことだってたまにはある。
なにしろ、こんなお気に入りの1冊に出会えたのだから。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:0
- ISBN:9784488011413
- 発売日:2024年11月29日
- 価格:2310円
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