星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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死の収容所を生き延びた父と息子
アウシュヴィッツをはじめとする収容所に、家族がずっと共に暮らすことは難しかった。ナチスドイツはユダヤ人を選別するからだ。老人、子供、虚弱体質は、労働力として認められず、優先的に殺された。健康な人たちも、時に危険な実験対象にされ、時に気まぐれに殺され、偶々「~人殺せ」とノルマを課された収容所にいただけで殺された。次々と一緒だった家族は列車や収容所で離ればなれになった。有名なアンネ・フランクのような例外もあるが、それでも父親と娘は引き離された。
本作の父子は例外中の例外である。父は息子を守るために収容所入りを決意し、息子は父親を追って収容所入りをした。世に有名な死の行進も体験した。5年半の間、持ち物は厳しく調べられるのに、父親は密かに日記を書いていた。ただ、家族のうち、母親と次女は、生き延びることができなかった。どこでどのように死んだかさえ、明らかではない。著者の想像で二人の最期は描かれる。他の死体と一緒に、次々と撃たれては深い溝に落ち、ごみのようにまとめて埋められた。およそ人間に対する仕打ちではない。
長女と次男は収容所入りを免れたが、逃れたと思ったユダヤ人迫害は、その先も追ってきた。彼らはルーツとなる場所を離れ、習慣や言葉を忘れ、移った先の国の人間になっていった。それが彼らの安全と幸せにつながったからだが、民族としての繋がりは途絶えてしまった。また、離れ離れの期間があったために、共通の思い出を持つこともできず、辛い事実は共有せざるを得ない。更に、それぞれの体験が異なることから、ナチスドイツに対する感情も幅が出た。戦争が家族を引き裂いたのではなく、ナチスドイツの仕打ちが、彼らを分断した。
これと同じことが、今、ロシアとウクライナで起こってはいないか。さすがにこれだけ衆人環視のもとでは、民族を絶滅させることなどは考えていないだろうし、それを目的とした戦いでもない。しかし、ウクライナの子供を誘拐したという事象も見られた。戦争は国と国との戦いだが、影響を受けるのは国民一人一人である。生き抜いた人々の精神力の強さは称えるべきだが、そもそもそんな精神力を試すような体験を、させるべきではないのだ。
本作の父子は例外中の例外である。父は息子を守るために収容所入りを決意し、息子は父親を追って収容所入りをした。世に有名な死の行進も体験した。5年半の間、持ち物は厳しく調べられるのに、父親は密かに日記を書いていた。ただ、家族のうち、母親と次女は、生き延びることができなかった。どこでどのように死んだかさえ、明らかではない。著者の想像で二人の最期は描かれる。他の死体と一緒に、次々と撃たれては深い溝に落ち、ごみのようにまとめて埋められた。およそ人間に対する仕打ちではない。
長女と次男は収容所入りを免れたが、逃れたと思ったユダヤ人迫害は、その先も追ってきた。彼らはルーツとなる場所を離れ、習慣や言葉を忘れ、移った先の国の人間になっていった。それが彼らの安全と幸せにつながったからだが、民族としての繋がりは途絶えてしまった。また、離れ離れの期間があったために、共通の思い出を持つこともできず、辛い事実は共有せざるを得ない。更に、それぞれの体験が異なることから、ナチスドイツに対する感情も幅が出た。戦争が家族を引き裂いたのではなく、ナチスドイツの仕打ちが、彼らを分断した。
これと同じことが、今、ロシアとウクライナで起こってはいないか。さすがにこれだけ衆人環視のもとでは、民族を絶滅させることなどは考えていないだろうし、それを目的とした戦いでもない。しかし、ウクライナの子供を誘拐したという事象も見られた。戦争は国と国との戦いだが、影響を受けるのは国民一人一人である。生き抜いた人々の精神力の強さは称えるべきだが、そもそもそんな精神力を試すような体験を、させるべきではないのだ。
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:河出書房新社
- ページ数:0
- ISBN:9784309229331
- 発売日:2024年09月27日
- 価格:3190円
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