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ぽんきち
レビュアー:
心の奥底にうずくまる、密やかなものたち
小川洋子の短編集。
密やかで、だが、どこか不穏さを秘める。

5編をゆるやかにつなぐのは、補聴器のセールスマンというちょっと変わった仕事の男。
男は必要な人に必要な音を届けるのが仕事である。スーツ姿でトランクを下げてあちこちを回る。
トランクに入っているのは、仕事道具だけではなく、人々のささやかな思い出のかけらである。
ダンゴムシの死骸。小鳥のブローチ。おもちゃのラッパ。コイルの切れ端。それらが古びたクッキーの缶の中に入っている。それぞれにふさわしい隙間にすっぽりと密やかにはまり込む。

生きていれば思い出は積み重なる。
生きていればどこかで罪も負う。
人は、すべてを明らかにすることはなく、大切な思い出、あるいは罪の記憶をそっと奥底にしまい込む。

実は、5編目だけは、セールスマンの男は出てこない。
選鉱場に母親と住む男の子の物語だ。男の子は、2つ、罪を犯す。おそらくは、彼が語らなければ、誰にも咎められることのない罪だ。読者はそれを目撃する。そして男の子とともに沈黙する。まるで共犯者のように。それは誰しもが犯すかもしれない罪だから。
彼はラッパを持っている。本当は彼が持っていてはならないラッパだ。そのラッパはおそらく、セールスマンがクッキーの缶に入れているものだ。
その経緯は明らかにはされないけれど、少年はおそらく、セールスマンになるのだろう。
密やかな秘密を抱えながら、人々にそっと音を届ける仕事を、彼は、選ぶのか。

不思議な余韻が残る作品。


*本作、VR映画になっているのだそうです(作品紹介ページ)。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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