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ぽんきち
レビュアー:
パリで起きた凄惨かつ不可解な殺人事件。定年退職した元警部と薬物中毒で休職中の若き刑事が挑む。
上下巻合わせて(上巻情報はこちら)。
パリの教会で、聖歌隊指揮者兼オルガン奏者が殺される。遺体の両耳の鼓膜は破られ、周囲に血痕があった。あまり大きくない足跡も。
凶器は見つからなかったが、この教会に通っていたアルメニア出身の元警部リオネル・カスダンは、これは事故や病死ではなく、殺しだと直感した。そして退職後の身でありながら、この事件を追いかけることにする。
被害者は両耳の間を貫通するように細長いもので刺されたと考えられた。そのような殺害法を実行するには強い力でかつ正確に急所を狙わなければならないだろう。
一方、被害者の内耳にはいかなる微細な金属片も残されていなかった。凶器はどのようなものなのか?
被害者は聖歌隊の少年たちを指導していた。彼らの中の誰かが、遺体の傍にあった足跡の主なのか。誰か、事情を知るものがいるのではないか。

カスダンのほかにもこの事件を追うものがいた。青少年保護課刑事のセドリック・ヴォロキン。薬物依存者を追うにあたり、自らも中毒者となってしまっていた。依存症治療のため、休職中である。しかし、教会での殺人、そして少年たちが関わっている可能性が、彼をこの事件に引き付けた。
かくして、カスダンとヴォロキンのはみだし者バディが不可解な事件に挑むことになる。

事件はこれでは終わらなかった。
同じような殺され方をするものが次々と現れた。決まって両耳の鼓膜が破られ、付近には子供のものと疑われる足跡があった。遺体の近くには、被害者の血で意味ありげな文言が書かれていた。
血を流しし罪よりわれを助けたまえ、
わが救いの神よ、
わが舌は汝の義を歌わん。

聖書の詩篇からの一節。アレグリ作曲の聖歌『ミゼレーレ』の歌詞である。
別の被害者の近くにも、また別の一節が。
最初の被害者の部屋にはこの曲のCDが遺されていた。しかも、CDの指揮者は被害者自身だった。
この曲が事件の鍵を握るのか・・・?

・・・ここまででもかなりてんこ盛りなのだが、本作、これでもかといろんな要素が詰め込まれ、あっと驚く展開も多い。
チリ軍事政権の闇、ナチスの残党、凄惨な拷問、カルト教団のテロ事件、国家の中に存在する「自治領」。少年による残虐な犯罪。
少しずつリアルを混ぜ込みながら、目くるめくフィクション世界が繰り広げられる。そう、それは、「ない」とはわかっていても、どこか「ある」ように感じられる世界線だ。
主人公の2人とて、実は一筋縄ではいかない。それぞれ、秘密の過去を持つ。その過去があってこそ、この事件にこれほど執着するのだ。

ノンストップの展開の果てには、映画ばりのアクションシーンも。現実的にはどちらが勝つかは自明だと思うのだが、さて。
そして、ああ、ようやく解決した、と読者が一息つく間もなく、最後の一行には爆弾が仕掛けられている。
安心させる隙を与えず、どこか不穏な空気を孕んだまま、物語は閉じられる。

好き嫌いはあるかもしれないが、そして個人的には好きというには少し色彩が強すぎる感があるが、怒涛の「サービス精神」には恐れ入った。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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