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morimoriさん
morimori
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男子刑務所で管理栄養士として働く著者。調理するのは、受刑者。
学校栄養士を経て、岡崎医療刑務所で栄養士として働く著者の体験談を中心とした内容は、初めて知ることばかりだった。刑務所の食事は、体力があり頭も良いエリート受刑者が作っているそうだ。情緒不安定だったり、反抗的だったり、素行の悪い者は配属されないらしい。てっきり、刑務所にも調理師がいると思っていたので、ほとんど調理初心者の受刑者が調理するとなると教える栄養士もなんと大変なことか。

 それでも、黒柳氏は愛情を持ちつつユーモラスな言動で受刑者たちを指導し、彼らがSOSを出した時には胸中焦りつつも的確に処理し信頼を勝ち取っていったのが素晴らしい。実際に体験したことが書かれているので説得力があるし、場面場面での緊張感や和やかな雰囲気が伝わってくる。受刑者を監視する刑務官も炊場にはいるのだが、刑務官はあくまで監視するのが仕事。受刑者が調理をしている段階で手に負えなくなった時、栄養士に連絡するのも刑務官だ。

 家庭では、それほど困難と思わない配膳でも卵焼きを20人分平等に分けたり、メロンを均等にカットしたりするにも全て平等にしなければならないとなると非常に神経を使うのだ。さらに、受刑者が火傷をしたりけがをしたりすれば問題行動として取り調べをされるのでトンテキを作った際には、焼き物係に火傷をさせては大変と、黒柳氏ひとりで最初から最後まで油まみれになりながら焼き終えたそうだ。

 また、揚げ物で最後にパン粉が残りそうだったので中途半端に残しても使い道がないため、作業終盤で多めにつければいいと言ってしまったことから、最後の方に作ったとんかつは見た目が大きくなり、不平等になって刑務官に叱られてしまったそうだ。何かにつけて平等に作らなければならない食事、ひとりふたりならできることでも、集団給食となると大変な作業だ。

 本の中には、刑務所で作った食事のレシピも記載されている。刑務所の食事と聞くと、暗い雰囲気で美味しくなさそうなメニューが浮かぶが、黒柳氏の奮闘の結果限られた予算や様々な制限の中でみんなが喜ぶような食事内容になっているのが素晴らしい。刑務所に入るまでは、食事に関心がなかった青年が実際に調理を担当するようになって食事の大切さ、食べることに関心を持つようになったという話は印象的だった。

 犯罪を起こした事実は、良いことではないが犯罪を起こすにはそれなりの理由や背景があったことだろう。食事を通して自分の身体や他人の身体、命を考える良い機会になるのではなかろうか。この本を書くにあたっては、反対意見もあり一時は企画自体が頓挫してしまうかもしれないという状況になったそうだ。この本を読んだことで受刑者の立場や刑務所での矯正作業の一端を知ることができて良かったと思う。黒柳氏が綴っているように、受刑者たちが二度とこの場所には戻ってくることなく、健康に生きて行って欲しいと私も願ってやまない。

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morimori
morimori さん本が好き!1級(書評数:951 件)

多くの人のレビューを拝見して、読書の幅が広がっていくのが楽しみです。感動した本、おもしろかった本をレビューを通して伝えることができればと思っています。

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