ぽんきちさん
レビュアー:
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「ヒルビリー」の生きにくさ
2016年のベストセラー。
ヒルビリー(Hillbilly)とは「山に住む人たち」を意味し、元々はスコットランドの言葉である。アメリカでは狭義に、そしてスラング的に、アパラチア山脈周辺に多く住む、スコッツ・アイリッシュ系のいわゆるホワイト・トラッシュ(白いゴミ:貧困白人層)を指す。
アメリカで白人は特権階級である、優遇されていると見られがちだが、白人ならだれでも恵まれているわけではない。貧困に落ち込み、離婚や薬物の問題から逃れられず、暴力に走りがちな層はいる。そうした層の暮らしがどんなものであるか、そしてそこから抜け出すには何が必要なのかを述べた自伝である。
著者自身、ヒルビリー出身だが弁護士となり、困難な人生から抜け出した人物である。
今頃この本を読んでいるのは、彼が次期大統領に返り咲いたトランプにより、副大統領候補に指名されていたからである。
本書は2年続けてニューヨークタイムズのベストセラーリストに載り、アパラチア的価値観と社会経済的問題を描いたとして高い評価を得た。
全体としては、著者一族のサーガとしても読める。実際、本作は映画化もされているそうだが、若くして結婚した祖父母が人生を生き抜いていく様は見ようによってはなかなかドラマチックである。だが、当事者としてみればそんな呑気なものではなく、生きることで精いっぱいだったのだろう。
それはそれとして、祖父方も祖母方もなかなか荒々しい一家だったようで、身内には愛情深かったのかもしれないが、何かというと暴力に訴えがちなところは少々ついて行けない感じがする。何しろ子供(著者の叔父)がおもちゃ屋の品物を手に取って遊んでいて、店員がそれを注意したら、祖父母がそろって怒って店の商品を投げ散らかし、店員をこっぴどく脅した、というのだ。これは度を超えているだろう。
とまれ、彼らは3人の子供を育て上げる。
子供世代(著者の母たちの世代)も何かと困難を抱え、高校を中退したり、若くして結婚しても相手とうまくいかず離婚してしまったりする。
特に著者の母は、何度もボーイフレンドを作っては別れの繰り返し。その関係には往々にして暴力が伴う。怒りは交際男性にだけ向けられるわけではなく、子供の著者が発したちょっとした言葉でも激し、自動車事故を起こしてしまったりする。母はついには薬物中毒になる。
紆余曲折があって、著者は祖母のところで暮らすことになる。
で、著者は、いささか粗暴ではあるが愛情がある祖母に見守られ、落ち着いて勉強ができるようになり、ヒルビリーの貧困連鎖のくびきから逃れた、ということなのだが。
ある意味、祖母の手がなければ確かに抜けられなかったのかもしれないが、祖母のおかげだけでもないのではないかという印象は受ける。同じような環境の人がそれだけでこの暮らしから抜けられるわけではないだろう。
著者の場合、高校卒業後に海兵隊で4年間過ごしている。そこで厳しい規律を身に着けたことが後の大学生活にかなり役立っているように見える。元々、能力の高い人ではあったのだろう。勤勉に学べば課題をこなすことができるという自信がそこでついたのではないか。
彼は海兵隊除隊後、イェールのロースクールに進学するのだが、ここで門戸が開かれたのはかなり運がよかったのではないか。そしてひとたびトラックに乗れば、その後の人生がうまく回るというのは、(それがよいかどうかは別だが)往々にしてそんなものなのではないか。
つまり、全体として、貧困層から彼がなぜ這い上がれたのか、貧困層にある人々が這い上がるには「何」が必要なのかが、この本からだけでは少々、読み取りにくかったように思う。
こうした層がいることは事実として、そしてそれが構造的な問題なのだとして、では解決には何が必要なのか、政治に何ができるのか、そこまでは本書からは見通せない。
もちろん、個人の体験談からそこまで引き出せるものではないのだろうし、一事例としてはなかなか興味深く読んだ。
この先、ヴァンス副大統領はどんな形で政権に貢献していくのか、関心を持っておきたいと思う。
ヒルビリー(Hillbilly)とは「山に住む人たち」を意味し、元々はスコットランドの言葉である。アメリカでは狭義に、そしてスラング的に、アパラチア山脈周辺に多く住む、スコッツ・アイリッシュ系のいわゆるホワイト・トラッシュ(白いゴミ:貧困白人層)を指す。
アメリカで白人は特権階級である、優遇されていると見られがちだが、白人ならだれでも恵まれているわけではない。貧困に落ち込み、離婚や薬物の問題から逃れられず、暴力に走りがちな層はいる。そうした層の暮らしがどんなものであるか、そしてそこから抜け出すには何が必要なのかを述べた自伝である。
著者自身、ヒルビリー出身だが弁護士となり、困難な人生から抜け出した人物である。
今頃この本を読んでいるのは、彼が次期大統領に返り咲いたトランプにより、副大統領候補に指名されていたからである。
本書は2年続けてニューヨークタイムズのベストセラーリストに載り、アパラチア的価値観と社会経済的問題を描いたとして高い評価を得た。
全体としては、著者一族のサーガとしても読める。実際、本作は映画化もされているそうだが、若くして結婚した祖父母が人生を生き抜いていく様は見ようによってはなかなかドラマチックである。だが、当事者としてみればそんな呑気なものではなく、生きることで精いっぱいだったのだろう。
それはそれとして、祖父方も祖母方もなかなか荒々しい一家だったようで、身内には愛情深かったのかもしれないが、何かというと暴力に訴えがちなところは少々ついて行けない感じがする。何しろ子供(著者の叔父)がおもちゃ屋の品物を手に取って遊んでいて、店員がそれを注意したら、祖父母がそろって怒って店の商品を投げ散らかし、店員をこっぴどく脅した、というのだ。これは度を超えているだろう。
とまれ、彼らは3人の子供を育て上げる。
子供世代(著者の母たちの世代)も何かと困難を抱え、高校を中退したり、若くして結婚しても相手とうまくいかず離婚してしまったりする。
特に著者の母は、何度もボーイフレンドを作っては別れの繰り返し。その関係には往々にして暴力が伴う。怒りは交際男性にだけ向けられるわけではなく、子供の著者が発したちょっとした言葉でも激し、自動車事故を起こしてしまったりする。母はついには薬物中毒になる。
紆余曲折があって、著者は祖母のところで暮らすことになる。
で、著者は、いささか粗暴ではあるが愛情がある祖母に見守られ、落ち着いて勉強ができるようになり、ヒルビリーの貧困連鎖のくびきから逃れた、ということなのだが。
ある意味、祖母の手がなければ確かに抜けられなかったのかもしれないが、祖母のおかげだけでもないのではないかという印象は受ける。同じような環境の人がそれだけでこの暮らしから抜けられるわけではないだろう。
著者の場合、高校卒業後に海兵隊で4年間過ごしている。そこで厳しい規律を身に着けたことが後の大学生活にかなり役立っているように見える。元々、能力の高い人ではあったのだろう。勤勉に学べば課題をこなすことができるという自信がそこでついたのではないか。
彼は海兵隊除隊後、イェールのロースクールに進学するのだが、ここで門戸が開かれたのはかなり運がよかったのではないか。そしてひとたびトラックに乗れば、その後の人生がうまく回るというのは、(それがよいかどうかは別だが)往々にしてそんなものなのではないか。
つまり、全体として、貧困層から彼がなぜ這い上がれたのか、貧困層にある人々が這い上がるには「何」が必要なのかが、この本からだけでは少々、読み取りにくかったように思う。
こうした層がいることは事実として、そしてそれが構造的な問題なのだとして、では解決には何が必要なのか、政治に何ができるのか、そこまでは本書からは見通せない。
もちろん、個人の体験談からそこまで引き出せるものではないのだろうし、一事例としてはなかなか興味深く読んだ。
この先、ヴァンス副大統領はどんな形で政権に貢献していくのか、関心を持っておきたいと思う。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:光文社
- ページ数:0
- ISBN:9784334770525
- 発売日:2022年04月12日
- 価格:1320円
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