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星落秋風五丈原
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日中開戦を阻止しようとした人々の物語
昭和初期、東洋の魔都、上海にやって来た本郷義明。酒場で歌う金髪美女、街で密かに囁かれるチャイナ・クイーン、そしてアヘンに溺れる貧乏画家。
頽廃と豪華。光と影が同居する街。
酒場で出逢った黄子満(ワンツーマン)と不思議な縁でつながれた本郷の活躍が始まる。
前振り「蘇州夜曲」
番外「南京路でつまずいて」「花は辺りに雨と降り」
「南京路うら話」収録。

「上海は外国みたいな街」だとよく言います。私も実際上海に行って、北京や洛陽とは全然違うと思いました。外国企業のビルが立ち並び、マックやミスタードーナツなどファーストフードの数も多い。戦前から海外資本が入ってたから受け入れる素地があったのでしょうか。
上海にあった日本租界や共同租界。自分の国なのに、外国人の方が威張っている。罪を犯しても中国人の訴えが取り上げられる事は稀。そんな不平等な時代があった事を、全く感じさせない現代の上海でした。

本郷は、正義感にあふれ、優しい面も持ち合わせている。新聞記者という職業柄、真実の追求に熱心。森川作品の主人公の典型と言えるでしょう。その彼とコンビを組むのが、中国人と日本人との間に生まれ、どちらにも属する事を認められない黄子満。そのため物事も人もシニカルに見ていて、「人間はそういうもんじゃない!」と理想論をぶつ本郷と衝突する。しかし、そんな本郷を決して嫌いではないし、多分そのままの彼でいて欲しいと思っている(とこれは想像)。主人公と対立する役回りで、男性にも女性にも愛される。
黄子満に対する女性側キャラとして、本郷の上司(日本人)の養女で、中国人の蔡文姫が登場。彼女も学校では日本人の横暴を口にするが、日本人を愛している。この二人が本郷に情報を与え、ある時は中国人として責める。それによって本郷が実態を知っていく筋立てに。
先の二人に、中国であって中国でない上海という街が投影されているようだ。彼等は中国と日本との間に不和の種を巻こうとする第三の敵と戦う。だが、第三の敵の代表格の人物についても、行動に至るまでの背景が描かれ、完全な悪玉として描かれてはいない。日本が完全な善玉として描かれているわけではないのと同じだ。国家権力VS個人の良心&正義。このテーマを描かせたら、森川さんの右に出る者はそういないのでは?

本編はハードなシーンが多かったので、番外の「南京路でつまずいて」で心が休まりました。幼い頃は本郷に、長じてからは屈折キャラの黄子満に感情移入できました。
「蘇州夜曲」は、森川さんのマレーネ・ディートリッヒ好きが良くわかる。

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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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