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ウロボロス
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ロシアがウクライナに侵攻して3年が過ぎようとしている。和平協定に至らない理由の一つが、ウクライナという国がヨーロッパとロシアのグレーゾーン=緩衝地帯であるからだそうだ。
この作品はドンバス(ドネツク)の「グレーゾーン」でミツバチを愛する養蜂家、「紛争には関わりたくない」という姿勢を貫きロシア人ともウクライナ人ともクリミア・タタールの人々とも交流する主人公、セルゲイ・セルゲーイチと彼の幼馴染で犬猿の仲であるパーシャ・フメレンコによる友情と絆と、また村を、国を追われた民衆の悲しみと憤怒を描いた現代ウクライナロシア文学の秀作です。

作者のクルコフは、この物語の核心を暗示的に暗喩的に表現するために「ミツバチ」と「グレー・灰色」というガジェット=小道具を用意し、物語を駆動させます。以下に引用します。

《自らの秩序と労働のおかげで巣箱に共産主義を打ち立てることができたのは、ミツバチだけだ。アリはというと、本物の〈自然〉の社会主義までは到達した。これは、アリが何も生産するものがなく、秩序と平等を維持することしか学ばなかったということだ。じゃあ人間はどうなんだ?》

また、ミツバチたちの労働の様子を描写したシーンは感動的ですらある。

《巣箱の中では生命がたぎっているかのようだった。ミツバチは朝一番の日差しを受けて起きだし、仕事にとりかかるものだ。今は、花粉を足に挟んで共同体へと運び、巣箱の出入り口に着地したところだ。》彼らの村に砲撃が着弾し、ミツバチを守るために主人公のセルゲーイチはこのグレーゾーンを出てクリミア半島を目ざす。
しかし犬猿の仲だった幼馴染みのパーシャはこの村に残るというが……。

物語には数々の「グレー」を象徴するエピソードやモチーフが語られる。物事には白黒にはっきりと決着をつけられず、むしろほとんどの事象は、関係の多様性のなかで多彩な「グレーゾーン」を、その曖昧さを受け容れることこそが、生きていく上でもっとも重要なことのひとつではないかと考えさせられた。それにしてもこの大自然のなかで描かれるミツバチたちの生きる逞しい美しさに、無辜の民衆を戦禍の只中に導いた当事国の為政者には目を留めてもらいたいものである。以下にその文章を引用し、来年の春を迎えるまでには和平協定を締結して欲しいと心より切望します。

《もうすぐ三月になり、冬が後退していく。雪が溶けてできた水溜りが、陽にあたって輝きだすだろう。(中略)冬が終わったばかりだからミツバチたちはそう遠くまで行かない。(中略)でも巣箱はもう陽を浴びて温まってきて、冬の湿気を中から追い出すだろう。(中略)大事なのは春だということ、自然が生命にあふれかえること、自然が生命の音や匂い、翼や羽で満ちあふれること。》アインシュタインも言っている。「ミツバチがこの地球上から絶滅したら人類も4年以内にそうなるだろう」と。
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ウロボロス
ウロボロス さん本が好き!1級(書評数:275 件)

これまで読んできた作家。村上春樹、丸山健二、中上健次、笠井潔、桐山襲、五木寛之、大江健三郎、松本清張、伊坂幸太郎
堀江敏幸、多和田葉子、中原清一郎、等々...です。
音楽は、洋楽、邦楽問わず70年代、80年代を中心に聴いてます。初めて行ったLive Concertが1979年のエリック・クラプトンです。好きなアーティストはボブ・ディランです。
格闘技(UFC)とソフトバンク・ホークス(野球)の大ファンです。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2024-12-22 15:27

    図書新聞、新年特大号にウロボロスさんのお名前を見つけて、おおっ!と思わず声を上げてしまいました。(^0^)/

    https://toshoshimbun.com/

  2. ウロボロス2024-12-22 19:12

    かもめ通信さん!ありがとうございます。
    以前、「本が好き!」のスタッフの方からメールが届いていたようですがよく内容を確認していませんでした。かもめ通信さんの情報提供によりはじめて知りました。これは嬉しいかぎりです。
    最近は、低登山にはまりまして読書時間が激減しています。(笑)。

  3. No Image

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