ぽんきちさん
レビュアー:
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臨床獣医師でもある著者が描く、人と獣、生と死の緊迫
表題作と「シャーマンと爆弾男」(第55回新潮新人賞)を収める。
「グレイスは死んだのか」
黒毛のレトリーバーの雌、グレイスは死にかけている。検査結果からは大きな異状は認められず、病気の徴候もない。
犬は健康体だ。だが、確かに死にかけている。
犬の飼い主は、元々馬の調教師で、どこか暴力的な男である。
「躾と調教は違う」というのが持論で、馬を扱う時も手荒な真似を厭わなかった。
もちろん、グレイスも小さいころから暴力を伴う訓練を施された犬だった。飼い主には絶対服従のはずだった。
だが、彼女の診察をする獣医師はある時、面会に来た飼い主とグレイスの意外な姿を目にする。
飼い主はグレイスとともに、深い山で遭難し、長い間彷徨した後に助かったことがあった。
その時の体験を、彼はぽつりぽつりと語り始める・・・。
深い山、手つかずの自然というのは、人里の常識が通用しない場所である。
そこで、命をつなぐか失うかという瀬戸際に立った時、1個の人と1個の獣の間に何が起こるか。その時、露わになるのは、互いのナマの力関係である。ひりひりした緊迫感は、恐怖も引き起こすが、一方、どこか陶酔も誘う。それこそが紛れもない、「生」の手ごたえであるからだ。
著者の筆は、その緊迫を力強く描きだす。ところどころ若干のわかりにくさはあるが、強い牽引力で読者を異界へと引きずり込む奇譚。
もう一作の「シャーマンと爆弾男」。
南米のシャーマン伝説に囚われる母子と、かつて革命を企てたホームレスの人生が交錯する。都会の風景の上にスピリチュアルな世界を重ね合わせる視点は意外に斬新だが、全体としては訴えるものがわかりにくいように感じる。
「グレイスは死んだのか」
黒毛のレトリーバーの雌、グレイスは死にかけている。検査結果からは大きな異状は認められず、病気の徴候もない。
犬は健康体だ。だが、確かに死にかけている。
犬の飼い主は、元々馬の調教師で、どこか暴力的な男である。
「躾と調教は違う」というのが持論で、馬を扱う時も手荒な真似を厭わなかった。
もちろん、グレイスも小さいころから暴力を伴う訓練を施された犬だった。飼い主には絶対服従のはずだった。
だが、彼女の診察をする獣医師はある時、面会に来た飼い主とグレイスの意外な姿を目にする。
飼い主はグレイスとともに、深い山で遭難し、長い間彷徨した後に助かったことがあった。
その時の体験を、彼はぽつりぽつりと語り始める・・・。
深い山、手つかずの自然というのは、人里の常識が通用しない場所である。
そこで、命をつなぐか失うかという瀬戸際に立った時、1個の人と1個の獣の間に何が起こるか。その時、露わになるのは、互いのナマの力関係である。ひりひりした緊迫感は、恐怖も引き起こすが、一方、どこか陶酔も誘う。それこそが紛れもない、「生」の手ごたえであるからだ。
著者の筆は、その緊迫を力強く描きだす。ところどころ若干のわかりにくさはあるが、強い牽引力で読者を異界へと引きずり込む奇譚。
もう一作の「シャーマンと爆弾男」。
南米のシャーマン伝説に囚われる母子と、かつて革命を企てたホームレスの人生が交錯する。都会の風景の上にスピリチュアルな世界を重ね合わせる視点は意外に斬新だが、全体としては訴えるものがわかりにくいように感じる。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784103554615
- 発売日:2024年07月31日
- 価格:1870円
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