ぽんきちさん
レビュアー:
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武田泰淳と中国古代と近代と。
『DJヒロヒト』の派生読書。
武田泰淳は、浄土宗の寺に生まれた。東大支那文学科在籍中は左翼活動を繰り返して、身柄を拘束され、その後、大学は中退。魯迅の弟の来日歓迎会を機に、竹内好らと共に「中国文学研究会」。日華事変時、戦線に送られるが2年後に除隊された経験を持つ。僧侶としての体験、左翼運動、戦時下における中国体験が、作品群の基礎にあると言われる。
以前『ひかりごけ』は読んでいるはずだが、レビューはまたあらためて再読の機会があった場合に書くことにする。
本書は中国に関わる短編小説集で、全部で15編を収める。いずれもさして長くない。
舞台は古代であったり、戦時中であったり、現実であったり、ややファンタジーめいていたりとさまざまである。
『DJヒロヒト』で触れられていた武田の逸話は、中国戦線で、殺さなくてもよい老人を殺した青年兵士の話。
「審判」と題する作品がそれにあたる。『DJヒロヒト』を読んだ際には、これは武田自身の告白なのかと思ったのだが、原典ではそうではない。ただ、おそらくはこれに類した話は身近であったことなのだろう。少なくとも、噂のレベルではなく、手を下した人間は自分ではないとしても、その人を実際に知っている、という話だと思う。
中国戦線で戦った青年は終戦後、日本には帰らないという。国には婚約者も待っているのだが。彼はその理由を手紙で告白する。
彼は戦地で2回、殺人を犯していた。1回は上長に命じられ、だが、2回目は自身の手で。
2度目の殺人はしなくてもよいものだった。分隊が略奪にいった村で、盲目の老夫と聾の老婦が残っていた。彼はふと銃を構えてしまう。そして何かが彼に引き金を引かせてしまう。
これは結構ずしんと怖い話で、自分もそこにいたら引き金を引いてしまったかもしれない、と思う。戦争なんだ。何万人も死んでいるのに、1人死ぬのが何なのだ。
そうして死ななくてもよかった人が何人も何人も死んでいったのだ。召集されるということは、そういう殺し手になるということだったのだ。
彼が最後にする決心は、どことなく『ビルマの竪琴』の水島を思い出させる。彼らの贖罪は報われたのだろうか。
「玉璜伝」「女賊の哲学」などは古代ファンタジー的な雰囲気。なかなかおもしろいけれど、オチがちょっとピンとこない。
「人間以外の女」は、何だか『聊斎志異』あたりにありそうで、『遠野物語』のような雰囲気もある。ぼんやりした男のところに、才色兼備の女が嫁に来る。人もうらやむような素晴らしい美人で仕事もできるのだが、この男の姉の夫がよその村へ行った際、「そんな妻が来るなんて、それは人間ではなく、蛇なのではないか。現にウチの村ではこれこれこのような話があった」というのを聞いて、義弟に問い質しに行く。義兄は、蛇だったら正体を現すという薬までもらってきている。そういわれると絶対に違うとは言えない男。ついに妻にその薬を飲ませてしまうのだが・・・、という1編。これも少々オチが弱い、というか、妻が蛇なのかどうかは結局判然としない。妻、本当は人間だったのに、ただ毒を飲まされて、苦しくて川に落ちて死んでしまったんじゃないの・・・?といささか不安になる幕切れ。
そこをはっきり書かないところが「味」なのかもしれないが、やや中途半端な感は否めない。
武田泰淳は、浄土宗の寺に生まれた。東大支那文学科在籍中は左翼活動を繰り返して、身柄を拘束され、その後、大学は中退。魯迅の弟の来日歓迎会を機に、竹内好らと共に「中国文学研究会」。日華事変時、戦線に送られるが2年後に除隊された経験を持つ。僧侶としての体験、左翼運動、戦時下における中国体験が、作品群の基礎にあると言われる。
以前『ひかりごけ』は読んでいるはずだが、レビューはまたあらためて再読の機会があった場合に書くことにする。
本書は中国に関わる短編小説集で、全部で15編を収める。いずれもさして長くない。
舞台は古代であったり、戦時中であったり、現実であったり、ややファンタジーめいていたりとさまざまである。
『DJヒロヒト』で触れられていた武田の逸話は、中国戦線で、殺さなくてもよい老人を殺した青年兵士の話。
「審判」と題する作品がそれにあたる。『DJヒロヒト』を読んだ際には、これは武田自身の告白なのかと思ったのだが、原典ではそうではない。ただ、おそらくはこれに類した話は身近であったことなのだろう。少なくとも、噂のレベルではなく、手を下した人間は自分ではないとしても、その人を実際に知っている、という話だと思う。
中国戦線で戦った青年は終戦後、日本には帰らないという。国には婚約者も待っているのだが。彼はその理由を手紙で告白する。
彼は戦地で2回、殺人を犯していた。1回は上長に命じられ、だが、2回目は自身の手で。
2度目の殺人はしなくてもよいものだった。分隊が略奪にいった村で、盲目の老夫と聾の老婦が残っていた。彼はふと銃を構えてしまう。そして何かが彼に引き金を引かせてしまう。
これは結構ずしんと怖い話で、自分もそこにいたら引き金を引いてしまったかもしれない、と思う。戦争なんだ。何万人も死んでいるのに、1人死ぬのが何なのだ。
そうして死ななくてもよかった人が何人も何人も死んでいったのだ。召集されるということは、そういう殺し手になるということだったのだ。
彼が最後にする決心は、どことなく『ビルマの竪琴』の水島を思い出させる。彼らの贖罪は報われたのだろうか。
「玉璜伝」「女賊の哲学」などは古代ファンタジー的な雰囲気。なかなかおもしろいけれど、オチがちょっとピンとこない。
「人間以外の女」は、何だか『聊斎志異』あたりにありそうで、『遠野物語』のような雰囲気もある。ぼんやりした男のところに、才色兼備の女が嫁に来る。人もうらやむような素晴らしい美人で仕事もできるのだが、この男の姉の夫がよその村へ行った際、「そんな妻が来るなんて、それは人間ではなく、蛇なのではないか。現にウチの村ではこれこれこのような話があった」というのを聞いて、義弟に問い質しに行く。義兄は、蛇だったら正体を現すという薬までもらってきている。そういわれると絶対に違うとは言えない男。ついに妻にその薬を飲ませてしまうのだが・・・、という1編。これも少々オチが弱い、というか、妻が蛇なのかどうかは結局判然としない。妻、本当は人間だったのに、ただ毒を飲まされて、苦しくて川に落ちて死んでしまったんじゃないの・・・?といささか不安になる幕切れ。
そこをはっきり書かないところが「味」なのかもしれないが、やや中途半端な感は否めない。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 発売日:2024年10月03日
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