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たけぞう
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自閉症の高校生が書いたスゴ本。
最近、発達障害に関する本を二冊読みました。どちらも衝撃を受ける素晴らしさがありました。そのうちの一冊がこの本です。

人間にはそれぞれ心理的な特性があります。特性の傾向がかなり強い場合に発達障害の診断が下りることがあり、その手前はグレーゾーンといわれます。特に、ADHDやASD特性の人は少なからずいて、あとは程度の強さの問題だと思っています。著者は自閉症の診断がされつつも、なぜかよくしゃべるという特殊な傾向があるそうです。ADHDやASDの特性も強く、自分の中で折り合いをつけようと頑張っています。

中学二年生の夏休みのときに書いた作文が、文部科学大臣賞を取り、著者の世界は一変しました。しかし、変化を極端に恐れる人です。変化を受け止めきれないとパニックになり、走り出してしまうのです。それでも、編集者とお母さんにサポートしてもらいながらなんとかこの作品を書き上げることができました。読者の立場から、ありがとうとお礼を言いたいです。

サポートといっても、ゴーストライター的なものではなく、執筆環境を整えることが中心で、文章に手を入れたとしても誤字脱字や誤認修正までです。読んでいて一番大事に思った部分です。時間はかかったようですが、文章が著者の中から出てきていることは読んでいて伝わるので、唯一無二の作品だと思うのですね。貴重な視点で、この目線で書ける人はほとんどいないでしょう。

イラストがね、可愛いんですよ。すべての頁に、落書きのように小さい人がいっぱい書いてあります。著者は、伝えやすくする手段として、昔からイラストをよく書いたそうです。うまい絵ではなく、ただの伝達手段だと著者は書いていますが、しかし読者には、著者の穏やかさや人間的魅力がイラストから伝わってくるんですよね。著者はそんなこと考えもしていないでしょうけど。小学生が書くような、ぬいぐるみ人間といえば伝わるでしょうか。棒人間から、少し発展したちびキャラ風の簡易な絵です。

著者は、小さい頃は他人の存在を認識することが苦手でした。にわかには信じがたいし、想像もできないのですが、説明がとてもうまいので、そういう人がいるんだと分かりました。音や光などにも弱く、急に変化があると驚いて走り出してしまうそうです。きっと逃げだしているんでしょうね、本能的に。

自分の気質を一生懸命言語化しようと取り組む著者に姿勢には、こころに迫るものがありました。他者を認識すらできなかった人が、どうやったら自我をコントロールできるかにつながる試みです。自分はワーキングメモリーが極端に少ないと著者は言います。例えると、作業する机が小さすぎて、考えたり言ったりしたことがぽろぽろとこぼれ落ちて、すぐに同じことを言ってしまうようなのです。

悪気なんてありません。しかし、他人に悪気がないと思ってもらうのは困難です。学校では宇宙人みたいと言われたこともあるそうです。著者には、他人に伝わらないもどかしさがあるはずなのに、誠心誠意向きあって、自分にできるやり方を探っています。

著者に見えている精神世界が、自分とは大きく違うことを知りました。そして、著者も自分がどうやら違っているらしいと理解しつつも、ずっと揺さぶられ続けて生きてきた人です。それにも関わらず、努力する姿勢に頭が下がります。本当に、本当にすごい人です。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。

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