耳をすませば (単行本 --)

　反応がいまいち鈍い子は、子供たちから“ばか”と呼ばれる。わかりやすい悪口だ。そんな子の一人がキム・イルだった。母親のオ・ヨンミまで、父親でもない男にホイホイついていくイルを“ばかじみた子”呼ばわりする始末。そんなイルにも特技があった。音を聞き分けられるのだ。

　寂れてしまったセオ市場をもう一度盛り上げようと図る商人会の総務チョン・ギソプだが、女性におごってデレデレしている所を浮気者と妻に見限られる。

　かつてはヒット作を飛ばしたが、独立して番組制作会社を立ち上げてからは、鳴かず飛ばずで、かつての部下をテレビ局の上司としてへいこらしなければならないパク・サンウン。

　ギソプが市場を立ち直らせる策として考えたのがイカサマ大会だ。何だ最初からイカサマかというなかれ。単なる名称である。祭りの時などにたまに見る、三つのコップをくるくる回して、どれに中身が入っているか当てるゲームだ。

　このゲームが、パク・サンウンによって、勝ち抜いた最後の一人が掛け金の十倍の賞金を手にするサバイバル番組として取り上げられる。そのゲームに一家の命運をかけて乗り込んできたのがキム・イル。こうして何とも冴えない三人が繋がった。

　チョ・ナムジュも賭けが好きらしい。デビュー作として多くの支持を集めたいなら、このエンディングにせず、“ささやかな家族との日々に幸せを見出す姿”を出して終わりにしたはずだ。こんなオープンエンディングでは、読者が気になって仕方がない。

　韓国はIMF通貨危機で支援を仰いだ際に、企業の大量リストラを命じられた経緯がある。三人の主人公たちは、直接その時代の影響を受けたわけではない。しかし、借金返済のために韓国社会が背負った軛は何年立っても下ろせない。一般庶民が絵空事ではない、本当の幸福を手に入れる日は遠い。これをデビュー作として世に出した作家も編集者も、攻めている。


チョ・ナムジュ作品
サハマンション
『82年生まれ、キム・ジヨン』
短編集
ヒョンナムオッパへ:韓国フェミニズム小説集