風竜胆さん
レビュアー:
▼
この出来事、もう忘れた人が多いかも?
 少し前に、大塚家具で、父と娘が経営権を巡る骨肉の争いが、連日のようにマスコミで報道されていた。そして、ひと昔前にも、静かな京都の街を、同じような事件が騒がせたことがある。一澤帆布の相続権をめぐる騒動だ。こちらは親子ではなく、兄弟の争いだが、当時は相当話題なったと記憶している。本書「一澤信三郎帆布物語」(菅聖子:朝日新書)は、その顛末を描いたものだ。
一澤帆布は、京都東山の地で、布製かばんの製造・販売を行っており、多くの人に親しまれてきた。信三郎氏は、社長として、この一澤帆布を切り盛りしていたが、父親の信夫氏の死により、事態は一変する。
顧問弁護士に預けられていた父親の遺言書は、いっしょに会社を経営してきた信三郎氏に一澤帆布の株式のほとんどを譲る一方で、他の家族にも、その立場に配慮して、なんらかのものを相続させるという、ごく妥当とも思えるものだった。
ところが、信三郎氏の長兄が、自分は別の遺書を預かっていると言いだす。この遺書は、日付こそ新しいものの、それまで一澤帆布の経営に関わってこなかった長兄に株式の大部分を譲るといった驚くような内容で、印鑑も実印でなく認印、筆跡もおかしい、使われた筆記用具も愛用の万年筆ではなくボールペンと、不自然な点が多かったという。
信三郎氏は、京都地裁に第2の遺言書の無効確認の訴訟を起こすも、まさかの敗訴。高裁も上告を棄却し、信三郎氏は一澤帆布を追われる。しかし、職人も顧客も信三郎側に付く。そして、信三郎氏は、一澤帆布の眼と鼻の先に、一澤信三郎帆布を設立した。
私は、遺言書の真贋をどうこう言う立場にはないが、戦い自体は、信三郎氏のワンサイドゲームと言ってもよかった。この騒動を、ニュースで聞いていた私は、2006年の11月に京都を訪れた際、野次馬根性で近くを通ってみたが、一澤信三郎帆布側の盛況ぶりと、土日休業を余儀なくされていた一澤帆布側とのあまりの差に驚いたものだ。
現在は、信三郎氏が一澤帆布に帰り咲いているが、これは、奥さんを原告にして、2回目の裁判を起こすことができたことによる。1通目の遺書には、信三郎氏の奥さんへの遺贈が記されていたのに対して、2通目の遺書には記されていなかったからだ。これを根拠に、奥さんが原告となって起こした裁判は、前の判決を完全にひっくり返す。本書の記載は、信三郎氏側の勝訴のところまでで終わっているが、調べてみると、どうもまだ、この後にいろいろあったようだ。相続問題というのは、拗れると泥沼に嵌ってしまうということが、この件でもよくわかる。
ところで、本書から読みとれるのは、こういった商売に大切なのは、ものづくりに対する情熱、周りからの信用、自分たちの作る製品に対するプライドと愛着といったことだ。どれも、長年、地道に商売をやっていく過程で蓄積されていくものだろう。いきなり、落下傘で空から降ってきて、そのようなもの無しに、伝統ある会社を経営しようとしても、無理とはいえないまでも、かなり難しいということは言えるだろう。
一澤帆布は、京都東山の地で、布製かばんの製造・販売を行っており、多くの人に親しまれてきた。信三郎氏は、社長として、この一澤帆布を切り盛りしていたが、父親の信夫氏の死により、事態は一変する。
顧問弁護士に預けられていた父親の遺言書は、いっしょに会社を経営してきた信三郎氏に一澤帆布の株式のほとんどを譲る一方で、他の家族にも、その立場に配慮して、なんらかのものを相続させるという、ごく妥当とも思えるものだった。
ところが、信三郎氏の長兄が、自分は別の遺書を預かっていると言いだす。この遺書は、日付こそ新しいものの、それまで一澤帆布の経営に関わってこなかった長兄に株式の大部分を譲るといった驚くような内容で、印鑑も実印でなく認印、筆跡もおかしい、使われた筆記用具も愛用の万年筆ではなくボールペンと、不自然な点が多かったという。
信三郎氏は、京都地裁に第2の遺言書の無効確認の訴訟を起こすも、まさかの敗訴。高裁も上告を棄却し、信三郎氏は一澤帆布を追われる。しかし、職人も顧客も信三郎側に付く。そして、信三郎氏は、一澤帆布の眼と鼻の先に、一澤信三郎帆布を設立した。
私は、遺言書の真贋をどうこう言う立場にはないが、戦い自体は、信三郎氏のワンサイドゲームと言ってもよかった。この騒動を、ニュースで聞いていた私は、2006年の11月に京都を訪れた際、野次馬根性で近くを通ってみたが、一澤信三郎帆布側の盛況ぶりと、土日休業を余儀なくされていた一澤帆布側とのあまりの差に驚いたものだ。
現在は、信三郎氏が一澤帆布に帰り咲いているが、これは、奥さんを原告にして、2回目の裁判を起こすことができたことによる。1通目の遺書には、信三郎氏の奥さんへの遺贈が記されていたのに対して、2通目の遺書には記されていなかったからだ。これを根拠に、奥さんが原告となって起こした裁判は、前の判決を完全にひっくり返す。本書の記載は、信三郎氏側の勝訴のところまでで終わっているが、調べてみると、どうもまだ、この後にいろいろあったようだ。相続問題というのは、拗れると泥沼に嵌ってしまうということが、この件でもよくわかる。
ところで、本書から読みとれるのは、こういった商売に大切なのは、ものづくりに対する情熱、周りからの信用、自分たちの作る製品に対するプライドと愛着といったことだ。どれも、長年、地道に商売をやっていく過程で蓄積されていくものだろう。いきなり、落下傘で空から降ってきて、そのようなもの無しに、伝統ある会社を経営しようとしても、無理とはいえないまでも、かなり難しいということは言えるだろう。
投票する
投票するには、ログインしてください。
昨年は2月に腎盂炎、6月に全身発疹と散々な1年でした。幸いどちらも、現在は完治しておりますが、皆様も健康にはお気をつけください。
この書評へのコメント
 - コメントするには、ログインしてください。 
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:朝日新聞出版
- ページ数:240
- ISBN:9784022732996
- 発売日:2009年10月13日
- 価格:777円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。
『一澤信三郎帆布物語』のカテゴリ
- ・政治・経済・社会・ビジネス > 経営









 
 













