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Yasuhiroさん
Yasuhiro
レビュアー:
レビュー百冊目となりました。皆さんのご評価いつも感謝しております。百冊記念に天下の奇書「百頭女」を紹介させていただきます。どうか「こんなもん紹介するな!」と怒らないでください。
  当サイトでのレビューが100冊目に達しました、いつも皆さんのご評価に感謝しております。で、何をレビューしようか悩んだのですが、100ということで、無謀にも天下の奇書「百頭女(La Femme 100 Tetes)」(巖谷國士訳)をレビューさせていただきます。昔ブログでハチャメチャなレビューをしたことがあるんですが、折角の百冊記念ですから真面目にやります!

  1929年にシュールレアリスムの画家マックス・エルンストが出版した、147ページ・9章からなるコラージュ・ロマン小説(?)で、1頁は挿絵と簡単なキャプションから成り立っており、全編悪夢のような幻想と反宗教、反道徳、暴力、破壊に満ちた世界像が描かれており、破壊からの新たな世界の再構築が図られる。。。。。まあ凄い本です。小説と言ってもストーリーは無いに等しく、章間のつながりもあるようでありません。絵と注釈が全く一致しないページも、ごく普通にあります。

  全章を通して出て来る主人公(?)は謎の百頭女と鳥類の長ロプロプ、どちらもシュールレアリスムのアイドル?アイコン?ともいうべき有名な存在。簡単に紹介しますと、
百頭女: 当然ながら百も頭はありません、名前はジェルミナル私の妹らしいです。ちなみに百頭女は秘密を守るというテーマが繰り返し何度も出てきます。これはエルンストの、妹との近親相姦願望を仄めかしているのではないかと見る向きもあります。ちなみに第8章のラストに絵の無いページが一つだけあり、そこには
「 こころしたまえ、
人の記憶にとどまるかぎり、百頭女はかつて一度なりとも、再増殖の幽霊と関係したことはない。これからもそうはならないだろう。 -むしろ露のなかにひたされて、凍った菫の花を糧とすることだ。」

と書かれております。「こころしたまえ」と言われてもねえ。

ロプロプ: エルンストの産んだ最高のクリーチャーと世評は高く、他の彼の作品にも登場するので、エルンスト自身ではないかと言われていますが、その真の姿は誰も知りません。最初ロプロプはパリ市街に姿を現しパリ盆地では、鳥類の長ロプロプが、街灯たちに夜の食事を運んでくるのですが、終章ではどういう訳か、
「ロプロプ、共感ある撲滅者にしてもと鳥類の長なりし者は、いくらかのこった宇宙の破片の上に、ニワトコの弾丸を数発ぶっぱなす。」

といつの間にか鳥類の長ではなくなっているようです。

 実在の人物もパストゥールセザンヌマタ・ハリ等々出ては来ますが、扱いは殆ど無機物同然です。唯一、ファントマ、ダンテ、ジュール・ベルヌの頁では3人が仲良く飛行船に乗っております。これに関し批評家サラーヌ・アレクサンドリアン
「この物語にはまさに、大衆小説(ベルヌ)と恐怖映画(ファントマ)の影像によって表現された一種の神曲(ダンテ)があるのだ。」

と述べております。はあ、そうですか。。。

 もちろんコラージュが主体の絵画ですから、どこかで見たような様々な人物や動物も出てきます。動物ではが多く、こちらは結構賢くて質問に答えております。
「あの猿に聞いてごらんー百頭女って誰?
教父のように彼は答えるだろうー百頭女をじっと見つめるだけで、わしにはあれが誰なのかわかる。
 だが君が説明をもとめればそれだけで、わしにはその答えがわからなくなってしまう。」

 なんじゃ結局分からんのかよ、なんて言ってはいけません。所詮猿ですから。いやいや案外宇宙の真理が含有されているかもしれません。少なくとも人よりは賢い設定のようです。

 えっ?何が何だか分からないって?ご心配なく、『シュルレアリスムの父』アンドレ・ブルトンが緒言を書いておりますので、そこから抜粋・コラージュして、この本の端的な紹介となるようにリコンストラクションしてみましょう。
「 待ちのぞまれていたものは、あるいくつかの表現の距離をおいた必然的な強化を、他のあらゆるものの消去によって増進させられた強化を、基本的に考慮しているような一冊の書物であった。(中略)
 さらに待ちのぞまれていたものは、私たちにいわせればどうでもいいような、少なくとも偉大さの点からは好ましくないような、ある物理的・精神的公準(中略)のおかげで混同されているばかりのいくつかの世界の神秘的でいかがわしい特性を、同時に拒んでしまうような一冊の書物である。(中略)
 待ちのぞまれていたものは、要するに、『百頭女』であったのだ。(中略) 『百頭女』は現代のこのうえもない絵本となるだろう。(中略)一九三〇年をむかえる前夜、私たちの進歩の概念はこのようなものである。」


  では最後にいくつか「いかにもシュール」というキャプションを紹介してみます。
「人は沸騰する洗濯剤によって、沈黙のうちに激情と負傷の魅力を増すだろう。」
「三番目の二十日鼠がすわると、伝説の乙女の体の飛ぶのが見られる。」
「体のない体がその体と平行に位置を占め、幽霊のない幽霊のように、ある特殊な唾液を用いて、郵便切手づくりの役にたつ子宮を私たちに示す。」

  そして最後にロプロプと百頭女の饗宴を。
「九度目の誕生に続く第七の年代を思いださせるために、見えない眼をしたジェルミナルと、月とロプロプとは、彼らの頭でいくつかの卵形を描きだす。」


  頭痛を起された方、めまいに襲われた方には深くお詫び申し上げます。
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Yasuhiro
Yasuhiro さん本が好き!1級(書評数:513 件)

馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8

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この書評へのコメント

  1. 塩味ビッテン2017-05-31 21:43

    酷い小説であることがひしひしと伝わってきましたよ。「青い脂」のほうがまだマシかなぁ

  2. Yasuhiro2017-05-31 22:20

    いやいや、青い脂よりは生理的嫌悪感はないですよ、頭が痛くなるだけ(w。って提督の青い脂のレビューまだでしたねえ。私はこっちでは遠慮しときます(^_^;)。

  3. No Image

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