書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

DBさん
DB
レビュアー:
荒地の風に聞こえる恋の話
イギリス文学といえば、必ず登場するのがブロンテ姉妹と彼女たちの生活したムーアの広がるハワーズです。
痩せた土地に蔓延しやすい疫病の影響で、嵐が丘の登場人物たちのように若くして亡くなる人が多い土地でもあったそうだ。
作者自身も早逝したが彼女の人生観はそのまま物語の主人公の中に現れているのではないだろうか。

「嵐が丘」を初めて読んだのは高校時代だったと思う。
英語の課題で嵐が丘のダイジェスト版みたいな本を読んで訳しなさいというのがあって、日本語版の本を読んで仕上げようという安易なプランだったのですが。
課題の方は結局どうしたのか記憶にないのだけど、ヒースクリフとキャサリンの激情とムーアに吹く風のイメージがいつまでも残っていた。
久しぶりに再読して気分はすっかりムーアの中へと飛んでいってしまいました。

物語はロンドンから人里離れた土地で過ごしてみたいと思い立った暇人ロックウッドが、ムーアの中に建つスラッシュクロス屋敷を借りたところから始まります。
彼の視点から家主であるヒースクリフ、そして彼が不思議な構成の家族と住む嵐が丘という名の屋敷を描いています。
当主のヒースクリフは無愛想を絵に書いたような人物で、炉のそばには人を睨みつける山猫のような娘が座っている。
さらに自らをアーンショーと名乗るも下働きの農夫にしか見えない若者と、年老いて頑固な下男。
当然温かい歓迎などあるわけもなく、ロックウッドは腹を立てながら借家へ戻るなり寝付いてしまった。

ロックウッドが借りたスラッシュクロスにいたメイドの口からスラッシュクロス屋敷のリントン家と、嵐が丘のアーンショー家、そしてアーンショー家に引き取られていたヒースクリフの物語が語られます。
それは二つに割かれてしまった魂がお互いを求めて咆哮する物語だった。
引き裂かれた痛みのあまり女は狂死し、男は復讐を求める。
それが更なる悲劇と痛みを生むものであると知りながら。

ヒースクリフのキャサリンへの愛と、その裏返しのようにキャサリンを奪ったリントン家への復讐心が際立っています。
キャサリンへの愛ゆえにどんな苦難でも耐え忍び、その恨みからどこまでも残酷になれる。
情の深い人間だったんだということは途中からではあるが痛いほど伝わってきます。
だからこそキャサリンの甥であるヘアトンは許せても、キャサリンの忘れ形見はその半分がリントンの血であるゆえに許すことも愛することもできなかったのだろう。
文字通り命をかけるほどの愛を表現し尽くした名作でした。
今でもムーアで風の音に耳をすませば、キャサリンとヒースクリフが笑い語らっている声が聞こえてくるだろう。
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2039 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

読んで楽しい:3票
参考になる:21票
共感した:3票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. ゆうちゃん2017-12-22 20:53

    ありましたねぇ、そう言う宿題。僕は、高1の夏休み、新任の英語の先日からリア王の全訳を課されました。一日1ページ、みたいな感じでやれば出来ますが、夏休みの終わり頃にはパニックになる奴もいて・・。5年前の同期会で宿題を出した当人にあれはキツかったみたいな話がをしたら、宿題を出したこと自体忘れていて、・・。

  2. DB2017-12-23 00:09

    全訳は辛いですね。しかも古い言葉が多いと難しくないですか? そういうのに限って出した本人は忘れるんですよね~。

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『嵐が丘』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ