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ぷるーと
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日本で初めて種痘を普及させた越前の町医者。苦難に満ちた彼の生涯は、人間愛に溢れていた。
 幕末、相次ぐ飢饉と天然痘の流行に、心を痛めている町医者がいた。越前藩の笠原良策だ。彼は、湯治に訪れた山中温泉で、蘭方医の大武了玄と出会うことで、漢方に凝り固まった自分の考えを正され、蘭方医学を学ぶきっかけを得る。それまで蘭方医を馬鹿に仕切っていた良策が考えを変えたのは、天然痘をどうにかしたいという強い思いがあったからだった。

 長崎で蘭学を学んだ良策は、天然痘の予防接種としての牛痘法を知り、それを何とかして越前藩でも普及させたいと考え、藩主松平春嶽に申請する。

 病に苦しむ人々を何とかして救いたいという、医者の熱い思い。だが、その思いは、なかなか藩主まで届かない。どんなに藩主が賢く近代的な考えを持っていても、その家臣は、相変わらずの保守的、権威主義なのだ。

 だが、申請しても申請しても藩主まで通じないもどかしさに苦しみながらも、良策の人々を救いたいという思いは変わることがなかった。
 ようやく藩主の許可を得て牛痘法の種を京都で得ると、京都の医者とともに、まずは京都で種痘を試み、そこに大坂の緒方洪庵が来ると洪庵が連れて来た子供にも種痘を施す。天然痘から人々を救いたいという各地の医者たちが、互いに交流し合い助け合う姿は、神々しいほどだ。

 良策たちは最初に牛痘法の種をつけた子どもの膿を次の子に植えることで種痘を行っていたため、京都で種をつけた子どもを越前までリレーして行かなくてはならなかった。越前から連れて来られていた子ども種痘を施してから、今度は雪中の峠を越えなくてはならない。この行軍は、まさに命の行軍であり、良策の願いがかなうかどうかの賭けでもあり、その描写は鬼気迫るものがある。

 種痘の種が越前についてからも、良策の苦難は続く。種痘を受けようという子どもがおらず、種が絶えてしまうという危機にまで見舞われる。
 それでも、良策はあきらめない。
 何事でも、始まりには困難がつきものとはいえ、良策たちのような善意の医者には、本当に頭が下がる。
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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2944 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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