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ぷるーと
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病気療養中の女性の日々を丁寧に描いた作品。
物語は、久野幸子が退院するところから始まる。彼女は大学生のとき結核にかかって療養のため休学したことがあった。今回、その結核が再発したのだが、極めて稀な性器の結核で、1年間は性交渉を禁止されている。幸子は、再発する以前に付き合っていた男性とは別れていて、医者の指示を辛く感じる状況にはない。

アパートに戻ると、建て増しされており、自分の部屋が勝手に2階に変えられていた。大家の家はすぐ隣なので、家族への感染を避けようとしたのだな、と少し憂鬱になる。

幸子は会社勤めをしていたが医者からは10ヶ月は自宅療養するように命じられており、買い物・散歩、午睡という規則正しい生活が続くのだが、その合間に親戚の女性がきたり、友人が来たり、初めて銭湯に行ってみたりと、ちょっとした出来事が描かれていく。

タイトルは、幸子が入院中に友人に借りた海外作家の日記の解説に「夫婦が心身共に離れ離れになることの多い年を重ね、そういう一時期を彼女は自分たちの『三年の牧歌』と呼んだ」とあるのを読んで、自分のためだけばかりでなく行為を禁じられている目下の自分の状態もやはり思いがけなく押しかけてきた牧歌にはちがいなかった、と感じていることによる。

時代は、1964年、新幹線が開業した年。まだ、結核が国民病と呼ばれていた。
社会に出て、働く女性が増えていた。幸子も働く女性で、関係を持つ男性がいた。だからこそ、1年の禁欲生活は、彼女の心理に微妙な陰影を生じさせている。ずっと静かだった幸子の生活の後半になって急に男性との関わりが増えてくると、俄然河野多恵子らしい不穏さが滲み出してくる。
谷崎潤一郎に影響を受け、『谷崎文学と肯定の欲望』等の評論も書いた河野多恵子が、第16回(1980)谷崎潤一郎賞を受賞した作品。終盤は、谷崎好きらしさに溢れていた。
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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2932 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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