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ぽんきち
レビュアー:
少女のころの、繊細で尖った友情。儚い、けれども心に残り続けるきらめき。
著者、イーユン・リーは北京生まれ。北京大学で生物学を専攻し、アメリカに留学して大学院で研究を続けていたが、進路を変更して創作の道に入ったという、なかなか変わった経歴。
創作は中国語ではなく英語で行っている。
中国を舞台にした作品が多いが、本作はフランスに住む少女たちを主人公とする。
訳者のあとがきによれば、著者はこう語っている。
人々は“中国について書けないか”と言います。ええ、中国について書けますけれども、中国だけが私のテーマではありません。私は友情についても書けますし、フランスの少女の友情について書くこともできるのです
作家たるもの、それはそうだろう。

主人公はアニエス。愚かではないが、才気煥発というわけではない。ある意味、普通の女の子である。
彼女の友達のファビエンヌは感性豊かで感情の起伏も激しい。
2人はフランスの片田舎に住む。性格の違う2人だが、結びつきは強く、お互いの間にしか通じない絆がある。2人には独自のルールの「遊び」があって、その延長線で「小説」を書くことにする。アイディアを出すのはもっぱらファビエンヌ。アニエスはそれを言葉にする役だ。2人は村の大人の助けも借り、「作品」を作り上げる。
それだけなら「遊び」で終わりだった。
だがそのちょっと風変わりな「作品」が都会の大人たちの興味を引く。
村の純真な少女がどこか暗さのある先鋭的な作品を書くとは。
大人たちは少女を都会に連れ出し、教育を施そうとする。原石を磨け、というわけだ。
だが、彼らは誤解していた。この作品を作っているのが1人の少女だと。
ファビエンヌは自身が都会に行くことを拒否し、アニエスに1人で行けという。それもまた、彼らの「遊び」の延長だったのだ。
そうして2人の人生の歯車は少しずつ食い違い、2人の友情も形を変えていく。

「神童」と(勝手に)言われた少女は、イギリスのフィニッシング・スクールに入れられる。そこで型にはめようとする教育を受けるのだが、アニエスにそれは合うはずもない。
村に残ったファビエンヌとは文通を続けるのだが、それすらも学校の先生のお眼鏡にはかなわない。
イギリスとフランスに隔てられた2人の間の物理的な距離。しかしそれ以上に、心の距離は開いていくのだ。

そして時は流れ。
ファビエンヌはもういない。お産の際に死んでしまった。
アニエスは流れ流れて今はアメリカにいる。そして家でガチョウを飼っている。
ガチョウはばかだと人は言う。でもガチョウが見る夢を人は誰も知らない。
アニエスは自身をガチョウになぞらえる。
彼女は真の作家になるだろうか。ガチョウの見る夢を描き切ることはできるだろうか。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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