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祐太郎さん
祐太郎
レビュアー:
コロナ禍の日本を舞台にした短編集。昔から人々の営みは、さみしさ希望が織りなす星々の瞬きのようなものなのかもしれない。
コロナ11波といわれているが、街中でマスクをつけている人はすっかり減った。2020年の一斉休校からロックダウンや重症度の高いデルタ株大流行下での東京オリンピック開催など遠い昔の気分になる。

この本はまさにその頃、人々の生活が極度に新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴う制限が世の中を覆っていた2020年8月から2021年7月に「野生時代」で発表された11本で構成された短編集である(書きおろしの1本を除く)

「今年はずいぶん静かですね」
久しぶりに希望ヶ丘に帰ってきたツバメが言った。
「ああ……まったくだ」
風をはらんだ尾びれをバサバサ慣らして黒い真鯉が応えた。「こんな寂しい五月は始めてだ」


短編集最初の『こいのぼりのナイショの仕事』の冒頭である。こいのぼりたちは、外に出られない病気の子を夢の中だけでも外を泳がせてあげるのだが、この年・2020年5月はすべての町の子を対象にした。そう一斉休校が確かにあった。子どもたちは家の中から出られなかった。『天の川の両側』では単身赴任先から帰れない夫とリモートでやり取りする妻子の話が彦星と織姫のように描かれる。

しかし、それだけではない。人々は行事や人形に自分の想いを託し、さまざまな災厄を乗り越えてきた。そこには先の太平洋戦争もあれば、平家の落ち武者狩りの時代もある。たとえ、寂しくても辛くても、そんななかに希望を見出し、歴史を紡いできた人々の思いは星の数より多い。この本のタイトルにもなっている「かぞえきれない星の、その次の星」はそんな著者の心象風景をもとにしたであろう短編小説である。

読んでいると、コロナ禍の重苦しい雰囲気を思い出してしまい、なかなかページをめくる手が進まない。私は2週間かかった。それでも、あの3年、オリンピックが終わるまでの最初の1年半の日本を後世に伝えるためにも必要な1冊だとは思う。

そして思うのである。
昔から人々の営みは、さみしさ希望が織りなす星々の瞬きのようなものなのかもしれない。


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祐太郎
祐太郎 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2351 件)

片道45分の通勤電車を利用して読書している
アラフィフ世代の3児の父。

★基準
★★★★★:新刊(定価)で買ってでも満足できる本
★★★★:新古書価格・kindleで買ったり、図書館で予約待ちしてでも満足できる本
★★★:100均価格で買ったり図書館で何気なくあって借りるなら満足できる本
★★:どうしても本がないときの時間つぶし程度ならいいのでは?
★:う~ん
★なし:雑誌などの一言書評

※仕事関係の本はすべて★★★で統一します。

プロフィールの画像はうちの末っ子の似顔絵を田中かえが描いたものです。
2024年3月20日更新

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