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ときのき
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歴史学はパレスチナをどう扱ってきたか
 2023年10月7日、ハマス主導の越境奇襲攻撃を契機にはじまったイスラエルによる大規模攻撃。本書は、一連の事態の歴史的経緯と、それを語る際に生じる偏向について、パレスチナ問題と歴史学への問題意識を共有する現代史の研究者たちが行った、講義と対談をもとに構成されている。
 「中学生から知りたい」とはなっているが、対象読者は「現在、または、近い過去あるいは遠い過去に、日本語の本を読むための基礎的な教育を受けたすべての人」とあるように、基本的な情報ではあるにせよ、表現に手心を加えた内容的に“やさしい”ものではない。

 巻頭に十九世紀以来のパレスチナの歴史年表が掲げられているが、これを見てもわかるように、いわゆる“パレスチナ問題”もガザ地区への迫害も、何も一昨年突然始まったものではない。
 現代ドイツ史やポーランド史の専門家が、戦前からの大きな流れの帰結として現在の惨禍があることを教える。そもそもが地理的にも政治的にも『パレスチナ』に起因する問題ではなく、元をただすなら、各国の政治的な思惑と、思想集団としてのシオニストの選民思想と、もっともらしい理由を付けたヨーロッパ諸国との経済的な互助関係が今のイスラエルの背骨を支えているのだ。

 東欧の流血地帯のなかからユダヤ教の分派であるシオニズムが誕生する経緯。ホロコーストの犠牲者、というイメージを政治利用してのイスラエルの勢力拡張。第二次世界大戦時のユダヤ人迫害を反省してきた筈のドイツが、ガザの虐殺は黙止しあくまでイスラエルを支持し続けるのはなぜか、など話題は多岐にわたる。
 驚かされるのは、ユダヤ人同士の関係も一通りではなく、イスラエル入植者たちはヨーロッパに残ってナチスドイツに迫害されていたユダヤ人の同胞を、自業自得と冷淡に眺めていたらしいことだ。【ユダヤ人】とひとくくりに民族単位で語ることで見えなくなる複雑な来歴と利害関係がそこにはあって、単純なヘイトを招来することには十分注意しつつも、支持する思想や派閥ごとの細かな検討がイスラエルを理解するためには必要だということがよくわかる。

 研究者たちによって繰り返し語られるのは、パレスチナでおこなわれていることを重視してこなかったこれまでの歴史学への反省のことばだ。歴史は何者の視点から語られるかでその姿を大きく変えてしまう。意味づけの仕方によっては、今現地で何が起きているか知らないわけではないのに、“自業自得”とか、“どっちもどっち”とかいった理解で思考停止してしまいそこにある悲劇が目に入らなくなってしまう。
 誰も皆日々の生活で忙しいのだから仕方がない――しかしもしも、メディアにより伝えられるガザの現状に寸時でも胸を痛めたことがある人ならば、本書を読むことで多くの新しい認識を得られるだろう。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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