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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
生きものを守るということは。
2020年、東京都台東区にひょっこり現れた雄のシカを、地元の警察や区役所の職員が苦労して捕獲するが、区の職員に「捕まえるより捕まえた後のほうが大変だった」と言わせるような事態になってしまう。
事の顛末を追いかけることから、この本は始まる。


増えすぎた野生動物たちを駆除するのは「かわいそう」なのか。だったら、どうしたらいいのだろう。たとえばシカだけに限ってみても、年間捕獲されるシカの数は五十万頭。国内すべての動物園に割り振れば一か所あたり5600頭余りを受け入れなければならない計算になるという。
あるいは、絶滅危惧種といわれる生き物たちを保護することに奔走すれば、そのせいで他の生き物たちが生きていくことを難しくしてしまうこともある。
侵略的な外来種と在来種の問題もある。


あちらを立てればこちらが立たず。素人考えで「よかれ」と思ってしたこと、ことに、小さなやさしさが、ずるずるととんでもないところに繋がっていき、思いもかけず、生物界に深刻な影響を及ぼすこともある。
いったいどうすればいいのだろう。


「(こどもに)先に矛盾のないことや分りやすいこと、たとえば『命は大切』ということだけを大人がすり込んでしまうのは、むしろ考えることを止めてしまいかねない」
「白黒つけられないこと、矛盾の中にこそ大事なものがある」
静岡県で「生物多様塾」を企画した夏目恵介さんの言葉、心に留めておきたい。


この本の著者たちはいう。「みんなが納得できる正解はなくても、『自分ならどうするだろう』と一緒に悩んでみて欲しいと思います」と。
そのためにまずは、今起きていることをいろいろな角度から知ろうとする必要があるのだ。
生きもののことにかぎらず、いろいろな分野で、私は理性よりも感情で動きがちだということを自覚している。聞きかじりの、強い言葉や胸を打つような言葉に左右されないように気をつけなければ、と思う。……この本を読みながら、どきっとしたり、そうだったのかと目が覚めるような思いをしたり、時々、とても恥ずかしくなったりしたことが、いくつもありました。



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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1732 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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