書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ぽんきち
レビュアー:
人はみな孤独で、そして誰も真相を知らない
吹雪の夜、フランス山間部の町で、一人の女性が失踪する。大規模な捜索がなされたが、その行方はなかなか知れない。さして大きくもない町で、噂は駆け巡る。皆、彼女は死んでいると思っている。

・・・そう、(タイトルが示唆するように)彼女は死んでいる。ではその遺体はいったいどこにあるのだろう? 誰が殺し、どこへ運んだのか。
1つの殺人を巡って、複数の人間の思惑が交錯する。

章ごとに語り手が入れ替わる。
ソーシャルワーカーとして働くアリス。
その愛人の孤独な羊飼い、ジョゼフ。
AV女優であったこともある若いデザイナーの卵、マリベ。
アフリカでネット詐欺に勤しむアルマン。
そしてアリスの夫で農場を経営するミシェル。
彼らのそれぞれの語りから、事件の全貌が見えてくる。

「悪なき」といってよいかどうかはわからないが、実は事件は誤解や不運が重なって起きている。犯人は虚像を憎んでいたのであり、被害者は犯人が思うような存在ではなかった。
中心となる殺人事件だけでなく、彼らを取り巻く事情はどこかちぐはぐだ。
出てくる人々は皆、それぞれの意味でそれぞれに孤独である。
それぞれ愛を追い求めているけれど、報われない。
てんでんばらばらの方向を向く矢印のように、それぞれの思いは交わりもせず、かみ合うこともない。

フランスの片田舎の閉鎖的な話で終わりそうなところで、いきなり舞台がアフリカ(コートジボワールであるらしい)に飛ぶのがなかなかアクロバティックである。
アフリカの風俗やロマンス詐欺の現場などの描写はなかなか興味深いが、しかし、アフリカとフランスをつなぐ展開は偶然が過ぎて作為が目立つ。
この虚構を許すかどうかが、本作を楽しめるかの1つの鍵になるかもしれない。
映画化もされていて、同じ出来事を複数の人物の視点で語りなおすことから、黒澤明の「羅生門」を思わせる手法だとの評もあるそうである。

原題は”Seules Les Bêtes”、直訳すると「動物たちだけが」となる。
著者によれば、「孤独に苦しんでいないのは動物たちだけであり、遺体がどこにあるのか知っているのも動物たちだけである」の意だそうである。
実際のところ、読者は、動物たちよりもなお事件の背景については多くを知るのだが、孤独については読者次第だろうか。
何だかそんなアンニュイな気分にさせる作品ではある。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

読んで楽しい:1票
参考になる:28票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『悪なき殺人』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ