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hackerさん
hacker
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和田誠が描いたカバーには、三人男の他に、犬が一匹同乗していますが、副題で「犬は勘定にいれません」との注意書き(?)があります。でも、それはないでしょう。たまにとは言え、話も自己主張もする犬なのに。
英文Wikipediaには、1898年刊の本書のカバーとフロントページの写真が載せてあります。それによると、カバーのタイトルは"Three Men in a Boat"なっていますが、フロントページには、副題として"To Say Nothing of the Dog!"が追記されています。丸谷才一が訳したこの本でも、カバーでは『ボートの三人男』と言うタイトルで、本文が始まる前のページに『犬は勘定に入れません』という副題がついているのは、原本の初版を踏襲したもののようです。作者ジェローム・K・ジェローム(1859-1927)は、小説だけでなく戯曲やエッセーも多々出版していますが、おそらく現在読まれているのは、本書だけでしょう。

本書は、「ぼく」とジョージとウィリアム・サミュエル・ハリス、それに「ぼく」の犬モンモランシーが、テムズ河をボートで旅する2週間にわたる珍道中を描いた、ユーモア小説です。井上ひさしによる解説では、丸山才一が筑摩版『世界ユーモア文学全集』の一冊として本作を訳した時のあとがきの一部が紹介されています。

「彼(作者ジェローム・K・ジェローム)はテムズ河の河遊びを好んだ。しばしば、二人の友人および一匹の犬といっしょにボートを漕いだのである。(ハリスに当たるものはカール・ヘンチェルというポーランド人、ジョージに当たるものはジョージ・ウィングレイヴとされている。三人目の男Jがジェローム・K・ジェロームその人であることは、言うまでもあるまい。更に、犬のモンモンシーもまた実在していた。そしてこの犬が湯わかしと格闘する話をはじめ、いくつかのエピソードは実際に起った通りを叙したものだそうである。)奇妙なことだが、『ボートの三人男』はユーモア小説として着手されたものではなかった。テムズ河についての歴史的および地理的な展望の書として目論まれたのである。(その痕跡はかなり色濃く残っているように思う。)しかし彼の溢るるばかりのユーモアは、旅行案内の書を変じて、イギリス第一の滑稽小説としてしまった」

手短ではありますが、見事に本書の内容を紹介していて、これ以上あまり付け加えることはないのですが、英文Wikipediaによると、カール・ヘンチェルはロンドンで印刷工場の創設者となり、ジョージ・ウィングレイヴは大手のバークレイズ銀行のシニア・マネージャになったということですから、作者も含めて、比較的裕福な地位にあったことが分かります。ただ、犬好きの私としては、モンモンシーのことを「勘定に入れません」というのはちょっと不満です。『ボートに乗った三人男と犬』という題名の方がしっくりきます。まして、この犬、たまにですが、話もするし、自己主張もするのですから。そして、外見はとても可愛らしいのです。

「人はモンモランシーを見るとき、これは人間の理解を絶したある理由のもとに、フォックステリアの形を借りて地上へと派遣された天使なのだと想像するであろう。モンモランシーの顔つきには、一種、ああこれは何という邪悪な世界だろう、これを改良し上品にできたらいいのだが、といった感じが漂っている」

ところが、この犬の実態はというと...。

「彼が殺した約1ダースのひよっこの代を払わされ、147回目の壮絶な市街戦から、彼を、吠えられたり蹴られたりしながら首根っこをつかまえて引き離し、カンカンになっている女から彼が嚙み殺した猫の死体をつきつけられ、その女に猫殺しよばわりされ、一軒おいて隣の男に、こういう猛犬を放し飼いにしておくもんだからこの寒空に物置小屋に監禁されたと文句を言われ、果ては、ぼくの遭ったこともないどこかの庭番がこいつに鼠を捕らせ、一定時間内に何匹つかまえるかを見事に当てて30シリング稼いだという話を耳にする」

引用が長くなりましたが、こういうユーモア小説は、実際の文に触れてもらった方が、その雰囲気が分かると思います。全篇、こういう品の良いユーモア満載の本ですし、楽しい本です。19世紀末のイギリスで書かれただけあって(?)、セリーヌや筒井康隆のユーモアとはまったく違います。良いとか悪いとかの問題ではないのですが、もうこういう類のユーモア小説は書かれないのではないでしょうか。そういう意味からも、古典と呼ばれる価値のある作品だと思います。

    • 1898年出版時の表紙
    • 1898年出版時のフロントページ
    • フォックステリア
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2281 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

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