かもめ通信さん
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酒に溺れ、女に溺れ、原稿は全くはかどらず、借金は膨らむばかり。あちこちに居候するも、いつも大きな顔をしている憎めない男。人生に嫌気がさしても人嫌いにはなれない…そんな安吾の青春譚。
“坂口安吾”といえば、小説家であり評論家であり随筆家でもあり、小説もいわゆる純文学だけでなく、歴史ものやミステリなど幅広い作品を手がけている、日本の近現代文学を代表する作家の一人だ。
そうではあるけれど、私がはじめて安吾の著作に手を伸ばしたのは太宰治からの派生で、だからだろうか、安吾といえば、飲んだくれて斜に構えつつも常に相手をよく見ていて、批評も的確だという印象で、それだけに自分語りはあまりしないタイプなのだと思い込んでいた。
だから「青春期を題材にした自伝的作品ばかりを集めた」作品集だと聞いて、意外な気がしつつも読んでみようと思ったのだった。
巻末に収録された文芸評論家・奥野健男氏の解説によれば、収録作品の主なものは、自伝的連作長編の一部として目論まれて書かれたものだという。
そういう観点に立って、書かれた年代ではなく、書かれている内容にそって時系列にならべて収録されているので、それぞれ異なる時期に別の媒体に発表されたものであるにもかかわらず、ひとりの作家、ひとりの男の、愛や仕事に苦しむ姿やあの人この人との関わりが、20歳頃から30代へと途切れなく続いていくのが見て取れる。
かつて芥川龍之介が自殺したというその部屋で、芥川の甥と共に同人誌の編集に明け暮れた表題作「暗い青春」は安吾25歳の頃の話、鬱々とした青春時代もこのあたりから脂がのってきて、牧野信一、小林秀雄、河上徹太郎、中原中也、三好達治等々見知った面子が顔を出し、俄然面白さを増す。
酒にも女にもだらしのない安吾がひたすら一途に綴る矢田津世子への愛は、切なさを通り越してなんだか怖くてひいてしまうほどだ…と思っていたら、安吾自身が
安吾自身の強烈な個性はもちろんのこと、時折出てくる名前を知っているあの人この人も、いずれ劣らぬ曲者揃い。
彼らの傍若無人の振る舞いも、安吾が語るとなんだか愛らしく思えてくるのは、書き手の視線が温かいからに違いない。
酒に溺れ、女に溺れ、原稿は全くはかどらず、借金は膨らむばかり。
あちこちに居候するも、いつも大きな顔をしている憎めない男。
人生に嫌気がさしても人嫌いにはなれない、そんな安吾の立ち位置は大抵の人にとっては“案外良い奴なんだよなあ”という感じ!?
でもそれって、本当に身近な人にとっては、結構しんどい存在なのかも……などと、読みながらあれこれと想像を巡らしてみたりした。
<関連レビュー>
教祖の文学・不良少年とキリスト
不連続殺人事件
ドストエフスキーとバルザック
外套と青空
太宰と安吾 (1968年)/檀一雄著
小林秀雄対話集
そうではあるけれど、私がはじめて安吾の著作に手を伸ばしたのは太宰治からの派生で、だからだろうか、安吾といえば、飲んだくれて斜に構えつつも常に相手をよく見ていて、批評も的確だという印象で、それだけに自分語りはあまりしないタイプなのだと思い込んでいた。
だから「青春期を題材にした自伝的作品ばかりを集めた」作品集だと聞いて、意外な気がしつつも読んでみようと思ったのだった。
巻末に収録された文芸評論家・奥野健男氏の解説によれば、収録作品の主なものは、自伝的連作長編の一部として目論まれて書かれたものだという。
そういう観点に立って、書かれた年代ではなく、書かれている内容にそって時系列にならべて収録されているので、それぞれ異なる時期に別の媒体に発表されたものであるにもかかわらず、ひとりの作家、ひとりの男の、愛や仕事に苦しむ姿やあの人この人との関わりが、20歳頃から30代へと途切れなく続いていくのが見て取れる。
かつて芥川龍之介が自殺したというその部屋で、芥川の甥と共に同人誌の編集に明け暮れた表題作「暗い青春」は安吾25歳の頃の話、鬱々とした青春時代もこのあたりから脂がのってきて、牧野信一、小林秀雄、河上徹太郎、中原中也、三好達治等々見知った面子が顔を出し、俄然面白さを増す。
酒にも女にもだらしのない安吾がひたすら一途に綴る矢田津世子への愛は、切なさを通り越してなんだか怖くてひいてしまうほどだ…と思っていたら、安吾自身が
当時を追憶して私が思うことは、私はあれほどの狂気のような恋をした。しかし、恋愛とは狂気のようなものではあるが、純粋なものではない(「三十歳」)などと分析していて、(ですよねえ…)と、心の中で共感ボタンを押したくなったりする。
安吾自身の強烈な個性はもちろんのこと、時折出てくる名前を知っているあの人この人も、いずれ劣らぬ曲者揃い。
彼らの傍若無人の振る舞いも、安吾が語るとなんだか愛らしく思えてくるのは、書き手の視線が温かいからに違いない。
酒に溺れ、女に溺れ、原稿は全くはかどらず、借金は膨らむばかり。
あちこちに居候するも、いつも大きな顔をしている憎めない男。
人生に嫌気がさしても人嫌いにはなれない、そんな安吾の立ち位置は大抵の人にとっては“案外良い奴なんだよなあ”という感じ!?
でもそれって、本当に身近な人にとっては、結構しんどい存在なのかも……などと、読みながらあれこれと想像を巡らしてみたりした。
<関連レビュー>
教祖の文学・不良少年とキリスト
不連続殺人事件
ドストエフスキーとバルザック
外套と青空
太宰と安吾 (1968年)/檀一雄著
小林秀雄対話集
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2024-09-18 06:47祐太郎さん主催の“カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024に挑戦!”参加レビューです。 
 
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- 出版社:KADOKAWA
- ページ数:0
- ISBN:9784041143155
- 発売日:2023年12月22日
- 価格:748円
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