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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
よく似た孤独の周りをよく似た孤独がぐるぐる回っている
1930年代末、アメリカ南部のある貧しい町に、ジョン・シンガーはいた。彼は聞くことも話すこともできなかったけれど、相手の唇が形作る言葉を見つめ、相手が何を言っているか知ることが出来た。控え目な微笑みと頷きを交えながら、いつどんなときも、静かに相手の言葉をきく彼を慕う人はたくさんいた。


ことに、シンガーを頻繁に尋ねたのは、この四人。
黒人たちは真に自由になるために行動すべきだと考える、黒人医師コープランド。
現実離れした理想と現実の自分との間で苛立ち、ときどき激する、流れ者のブラント。
音楽を愛し、いつか、この町を出て成功することを夢見る少女ミック。
二十四時間営業のカフェの店主で、町の人々の変遷をずっと見てきた、ビフ。


彼らには、心許せる友はいない。そんな彼らが、シンガーに胸の内を話す。そして思う。シンガーは自分の同胞、彼ほど自分と気持ちをわかちあえる人はいない。彼は特別な人だ。


だけど、本当はシンガーには、彼らの言おうとしていることがさっぱりわからない。彼は特別な人なんかではない。シンガーが町の人びとの言葉を聞くのは、親友がいない寂しさを埋めるために過ぎない。
彼を慕う町の人々と同じくらい、シンガーも孤独なのだ。
シンガーの親友は遠い町の精神病院に入院している。シンガーは、親友に、傍にいて自分の本音を、語るままに聞いてほしかった。


よく似た孤独の周りをよく似た孤独がぐるぐる回っている感じだ。本当は誰よりも理解してもらいたいと願っているが、同時に、誰でもいいわけではないのだ、とも思っている。その孤立は凛々しくて、同時に傲慢に思える。寒々としている。
対象的なのは、医師コープランドの娘ポーシャを中心にした人びとの輪だ。互いをいたわり合う温かい関係。だけど、彼らは、厳しい現状に抵抗しても仕方ない、口を閉ざしているしかないと思ってる。


ストーリーらしいストーリーがあるわけではないのだ。それぞれの生活の山や谷は続いていく。その先にあるのは、決して彼らが思い描くような未来ではないだろう。
それでも、寒々として傲慢に見える彼らの孤独がときどき、何よりも燦然と輝くように見えることがある。
未来は明るくないかもしれないが、すぐに消えてしまいそうな一瞬の輝きは、幻とは思えない。いいや、幻でもいい。


そして、春夏秋冬の日の光、吹く風の匂い、さりげない町角の描写などが、いい。いったこともない町が、懐かしいと感じる。





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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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この書評へのコメント

  1. hacker2025-02-27 08:46

    マッカラーズは、私の好きな作家です。殊に、この本は気に入っています。ずいぶん前ですが、私もレビューをあげているので、よかったら、のぞいてみてください。

    https://www.honzuki.jp/book/185717/review/53855/

  2. ぱせり2025-02-27 11:59

    hackerさんの書評が確かあるはず、と思って探したのですが、見つかりませんでした。教えていただき、ちゃんと読むことができて嬉しいてす。ありがとうございます。
    この本、とてもよかったです。みんなヘンテコな人たちなのに、好きにならずにいられなくて、さらに、この人たちの暮らす町がそっくりこのままで大好きになってしまいました。出会えてよかった!

  3. hacker2025-02-27 12:45

    そうなんですよね。登場人物は孤独というキーワードでつながっているんですけれど、その心情がとてもよく描かれていると思います。マッカラーズの他の作品では、最近『哀しいカフェのバラード』という題で村上春樹の新訳が出ましたが、『悲しき酒場の唄』もお勧めです。ぱせりさんのツンドク山(脈?)に入れておいてもらうと、マッカラーズ・ファンとしては嬉しいです。こちらもレビューをあげているので、よかったら、のぞいてみてください。

    https://www.honzuki.jp/book/185990/review/54179/

  4. ぱせり2025-02-27 12:49

    ありがとうございます。ぜひとも! ツンドク山、なるべく手前の低い、えーっと、あのあたりに置いて、早めに降ろしたいと思います^^

  5. hacker2025-02-27 12:56

    はい、ありがとうございます。せっかちですが、気は長いので、ぱせりさんの書評をゆっくりお待ちします。

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