ぽんきちさん
レビュアー:
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DJゲンイチロウが紡ぐ昭和文学史
642ページの大部。が、意外と読みやすい。
このタイトルは若干ミスリーディングな印象で、昭和天皇がDJとして活躍するかのようだが、「ヒロヒト」の出番はさほど多くない。いや、このお話全体がDJヒロヒトの番組だったのだ、と取ることも可能なのだが、それよりはやはり何だか作者の影がちらつく作りに感じる。
すなわち、ディスクジョッキー、高橋源一郎が、縦横無尽に時空を超えてあちらこちらをつなぎ、リミックスし、曲を挟みながらオールナイトで語り尽そうとしているような。
語られる時代は昭和である。「ヒロヒト」の時代だ。
帯には、「この小説に登場するのは・・・」「井上毅、井上靖、大岡昇平、小笠原長生、小田実、折口信夫、金子文子、狩野亨吉、北杜夫、古関裕而、小林勇、志賀直哉・・・」等々、延々40人ほどの名前が挙げられており、もちろん、他の人々も出てくる。
群像劇なのだが、ただ単に史実をなぞるだけではない。いや、時には史実というか、原典にほぼ忠実なのではないかと思われる箇所もある。作家の戦争体験や、壮絶な半生記などだ。一方で、例えば南方熊楠が現代アニメの架空の人物と語り合ったり、昭和のはずなのにAIが絡む会話があったり、アクロバティックなシーンが随所に挟まれる。
それが全体で独特なグルーヴ感を呼び、物語を牽引していく。もちろん、ところどころについて行けなくなったり、原典があるのだろうが何なのか不明のものがあったりもするのだが、それすらも1つの味となる。
だいたい、深夜のラジオ番組って、そうそう一言一句漏らさずに聞くようなものではないわけだし。
一見、離れ技のように見えるのだが、著者が狙っているのは、現代人がその時代に放り込まれたとしたらどう感じるのか、という視点のように思う。
人の感じ方に対して時代の「空気」がもたらす影響というのは存外大きくて、誰もそこから自由にはなれない。けれど、そうは言ってもある程度俯瞰することは可能だよね、みんな、自分のアタマで考えてみようよ、という呼びかけのようにも思えてくる。
昭和史・昭和文学史を語れば、いくらでも重厚にしかつめらしく語ることは可能なのだろうが、エンタメ色を失わずに大部を成立させたところが本作の持ち味だろう。
膨大な量の資料にあたっているのだろうが、参考文献は一切記されていない。「煩雑となるため、そのリストは掲載しないことにした」とさらっと書いてあるが、理由はおそらくそれだけではないだろう。
読者としては、「いや、そこはやっぱり挙げてほしかったな」という思いもあるのだが。
ラジオから流れる曲にふと耳を留めるように、ああ、そんな作家がいたのか、こんな作品があったのか、という読み方もできる、エンタメ昭和文学史。
このタイトルは若干ミスリーディングな印象で、昭和天皇がDJとして活躍するかのようだが、「ヒロヒト」の出番はさほど多くない。いや、このお話全体がDJヒロヒトの番組だったのだ、と取ることも可能なのだが、それよりはやはり何だか作者の影がちらつく作りに感じる。
すなわち、ディスクジョッキー、高橋源一郎が、縦横無尽に時空を超えてあちらこちらをつなぎ、リミックスし、曲を挟みながらオールナイトで語り尽そうとしているような。
語られる時代は昭和である。「ヒロヒト」の時代だ。
帯には、「この小説に登場するのは・・・」「井上毅、井上靖、大岡昇平、小笠原長生、小田実、折口信夫、金子文子、狩野亨吉、北杜夫、古関裕而、小林勇、志賀直哉・・・」等々、延々40人ほどの名前が挙げられており、もちろん、他の人々も出てくる。
群像劇なのだが、ただ単に史実をなぞるだけではない。いや、時には史実というか、原典にほぼ忠実なのではないかと思われる箇所もある。作家の戦争体験や、壮絶な半生記などだ。一方で、例えば南方熊楠が現代アニメの架空の人物と語り合ったり、昭和のはずなのにAIが絡む会話があったり、アクロバティックなシーンが随所に挟まれる。
それが全体で独特なグルーヴ感を呼び、物語を牽引していく。もちろん、ところどころについて行けなくなったり、原典があるのだろうが何なのか不明のものがあったりもするのだが、それすらも1つの味となる。
だいたい、深夜のラジオ番組って、そうそう一言一句漏らさずに聞くようなものではないわけだし。
一見、離れ技のように見えるのだが、著者が狙っているのは、現代人がその時代に放り込まれたとしたらどう感じるのか、という視点のように思う。
人の感じ方に対して時代の「空気」がもたらす影響というのは存外大きくて、誰もそこから自由にはなれない。けれど、そうは言ってもある程度俯瞰することは可能だよね、みんな、自分のアタマで考えてみようよ、という呼びかけのようにも思えてくる。
昭和史・昭和文学史を語れば、いくらでも重厚にしかつめらしく語ることは可能なのだろうが、エンタメ色を失わずに大部を成立させたところが本作の持ち味だろう。
膨大な量の資料にあたっているのだろうが、参考文献は一切記されていない。「煩雑となるため、そのリストは掲載しないことにした」とさらっと書いてあるが、理由はおそらくそれだけではないだろう。
読者としては、「いや、そこはやっぱり挙げてほしかったな」という思いもあるのだが。
ラジオから流れる曲にふと耳を留めるように、ああ、そんな作家がいたのか、こんな作品があったのか、という読み方もできる、エンタメ昭和文学史。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784104508037
- 発売日:2024年02月29日
- 価格:4180円
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