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紅い芥子粒
レビュアー:
日本人の母と、ケニア人の父に間に生まれたリイマ。日本では日本人に見えないといわれ、ケニアに行けばケニア人とはちがうといわれる。わたしは、いったいなにもの?
リイマは、小学校五年生の女の子。
日本生まれの日本育ち、日本語しか話せない日本人。
でも、肌の色が黒い。弟のカイもレオも黒い。
マミーは「ふつう」の日本人だが、ダディーがケニア人だから。
陸上の長距離ランナーだったダディーは、リイマが保育園のころにケニアに帰ってしまって、それきっきりだ。
マミーと弟たちは、歯科衛生士として働くマミーひとりの手で育てられた。

物語は、リイマに新しいお父さんができるところから始まる。
マミーの再婚相手は、「ふつう」の日本人男性だ。
ツンデレのおばあちゃんもできて、しあわせいっぱいのリイマだが、学校ではいろいろある。リイマの黒い肌をめぐって。

スポーツテストで、リイマは、学校一のタイムを出した。
男子をひっくるめての一番だ。二番になった亮は、リイマに向かっていう。

おまえは黒人だから速くてあたりまえ。ずるいぞ、黒人は黒人だけで競争してろ。

亮の発言を、女子の一人が、告発する。

先生、亮君がリイマちゃんを差別しています。

差別? リイマは釈然としない。
差別されたとは思わない。亮は、負けて悔しかっただけだろう。
でも、黒人だから速いといわれるのは心外だ。速いのはわたしのの実力だから。
もやもやしているリイマのまわりで、人種差別反対!の大合唱が起こる。
それが、いっそうリイマをもやもやさせる。

なぜ?わたしは日本人なのに。

ある日、リイマが一年生の教室に行ってみると、弟のカイが友だちから「クロ」とよばれていた。カイは、きげんよく返事をしている。
リイマは、ものすごく腹を立てた。

クロなんて呼ぶなっ、容姿や容貌の特徴をあだ名にしてはいけないんだっ。

へえ、いけないんだね

叱られた子は、きょとんとしていたが、意外とあっさり納得する。

差別って、なに?
大人の読者でも、子どもたちの議論に加わりたくなる。


夏休み、リイマは、おばあちゃんにさそわれてケニアに行く。観光旅行だ。
迎えに来てくれたガイドは、リイマを見て、あんたの肌の色はケニア人の肌の色とはちがうという。

アフリカの雄大な自然、動物たちの厳しい生存競争。
観光客にとうもろこしを売る少年。アクセサリーを売る少女。
水道も電気もない村の生活。観光客には豪華で快適なホテル。
観光の範囲で、リイマはケニアの現実を垣間見る。

日本とケニア。まったくちがう個性の二つの国。母の国と父の国。

日本では日本人なのに日本人に見えないといわれる。
ケニアに行けば、ケニア人とはちがうといわれる。
わたしは、いったいなにもの?

揺らぐアイデンティティに惑う少女が答を見つけ出すまでの旅路を、読者はともに歩きながら、何度も立ち止まっては考え、誰かと議論したくなる。子どもでも大人でも。
そんな一冊。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:560 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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