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かもめ通信
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川上版『伊勢物語』は、意外に手堅い。
●昔から“伊勢・源氏”=『伊勢物語』と『源氏物語』は歌人にとって必読の書と言われていた。

●『源氏物語』に影響を及ぼしたと考えられている先行文学は、『和泉式部日記』『蜻蛉日記』『竹取物語』等々いくつもあるが、とりわけその源泉となっているとまで言われているのが『伊勢物語』である。

遠い昔、古文の授業に入れ込んでいたこともある私は、これまでに何度も『伊勢物語』を読んでみようと思い立ってはみたものの、そのたび、途中で挫折してきた。

「むかし、お(を)とこありけり」

全百二十五段からなる物語は、世間で語り伝えられている名歌が詠まれた事情を語る「歌物語」。
短いものだとほんの数行、決して読みづらいものではないはずなのだけれど、それだけにかえって読者の方に「歌」を読み込み味わう力量がないと、面白みを感じる前にさらっと読み流してしまいがち。
しまいには、どこまで読んだかわからなくなって、結局本棚に戻してしまう……そんなことを繰り返してきたのだった。

今回は 『センセイの鞄』などで知られる作家川上弘美さんの新訳でチャレンジしてみることに。

ちなみみに諸処の事情から文庫版で登録したが、読んだのは 積読棚に埋蔵されていた池澤夏樹=個人編集 日本文学全集03だ。

この池澤夏樹=個人編集 日本文学全集、当代の人気作家たちが次々と古典の現代語訳を手がけたことでも話題を呼んでいて、中には橋本治並の変化球もあるようだが、川上版『伊勢物語』はオーソドックス。

例えば、<百十八段>を例に取ってみよう。
 
 昔、をとこ、久しくをともせで、「忘るる心もなし。まゐり来む」といへりければ、
 玉かづらはふ木あまたになりぬれば絶えぬ心のうれしげもなし

原文はたったこれだけの短い段なのだが、これを川上は、こんな風に訳す。

 男がいた。
長いあいだ便りもせずにいた女のところへ、
「忘れてなどいませんよ。これからうかがいます」
と言ってきた。
女は、詠んだ。

  玉かずらはふ木あまたになりぬれば絶えぬ心のうれしげもなし

    玉かずら(蔓草)が
    あまたの木々に這うように
    あなたも
    あまたの女とかかわる
    あたくしとの仲が
    絶えることはないと
    あなたは言うけれど
    ちっとも
    嬉しくないのです


こういう風に各段の和歌を解釈してみせる一方で注釈などは一切無し。
この歌は誰が読んだもので、どこに収録されていたものか、などの情報は得ることが出来ない。

歌の意味がよくわかるので、二人の仲を想像しやすくはあるけれど……。

原典+αの並行読みをしてみなかったら、やっぱり途中で躓いてしまったかもしれない。



<関連レビュー>
伊勢物語/新日本古典文学大系 17
・恋する伊勢物語/俵万智(近日アップ予定)


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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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