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ゆうちゃん
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ゲーテの畢生の大作「ファウスト」のガイド本。「ファウスト」は、ゲーテの執筆意図と離れて、数々の誤解された解釈を生んできた。神格化が最たるものである。それを打破する好書。
ゲーテの「ファウスト」を読んだのは大学三年生の時だった。理科系の学生だったが数式ばかりではなく、リベラルアーツは独自に身に着けようと思っていたし、当時も今も好きなクラシック音楽にも数多く取り上げられている作品なのでその観点からの興味もあった。音楽はさておき、学生時代から自己流リベラルアーツとしてモームの「世界の十大小説」に取り上げられた作品やマンの「魔の山」など多くの作品を読んだ積りだったが、その大半は雑読に終わり、粗筋さえ頭の中に残ったのか怪しいレベルの読書だった。そんな中でこの「ファウスト」は、筋書き自体は頭によく残った作品である。しかし、筋書きがよく残った割りには、当時の読後感は「それで?」と言ったもので、要するにこの戯曲は何が言いたいのかわからないと言う、文豪ゲーテ畢生の大作に対して非常に失礼なものであった。
ここ10年、そうした若い頃の雑読作品をずっと読み返してきたが、ゲーテの小説類はかなり読み尽くし、残っているのは「ウィルヘルム・マイスターの遍歴時代」くらいである。書棚を見渡して戯曲の大作「ファウスト」が残っているのが目についた。だが、再読しての「何が言いたいのかわからない」と言う結果は避けたく、ガイド本を探し、本書を手にした。ファウストの解説本を探しても意外と少なく、Wikiのファウストの項では本書が取り上げられているのも決め手だった。

本書は、著者・中野和朗氏の「ファウスト」についての解説が書かれている「はじめに」と「少し長めのあとがき」で粗筋をサンドイッチしている。粗筋は、適宜重要な場面のセリフやト書きを引用しながら、著者の解説を交えて説明する優れものだった。
カバーの裏に「ファウスト」は
「努力し続ける教養人・学者ファウストの物語」ということになっている。しかし名作をひもとけば、欲望のままに少女を騙すわ、捨てるわ、殺人を犯すわ、ただのろくでなしと何が違うのか?

とあり、「何が言いたいのかわからなかった」自分の掴みはこれで十分である。
「はじめに」で著者は、まずファウストと言う作品の神格化の問題を取り上げている。ゲーテはこれをただのエンターテインメント(実は、「少し長めのあとがき」を読むとそうとだけとも言えないことがわかる)であり、見て楽しむ演劇だと言っている(本書引用の「エッカーマンとの対話」にそのようなゲーテの文言がある)。ところが、そもそも私のような読者は字面だけを追うので演劇的エンターテインメントを楽しむには無理があるし、ゲルマン学者は、ゲーテの意向を無視して、これに深遠な意味を見出そうと悪戦苦闘してきて作品の神格化が起きたらしい。巻末の「少し長めのあとがき」では日本の場合、主として青年の成長を扱ったドイツ教養小説(ゲーテの「ウィルヘルム・マイスターの徒弟時代」がまさにそうだ)の一冊と誤解されてきた経緯があり、それに輪をかけている。それ故、本書の粗筋では舞台効果など演劇エンターテインメントとして、19世紀の聴衆がどのように楽しんだかも重きを置いている。エンターテインメント性については、本書の解説や粗筋で十分わかるようになっている。
自分には、「この戯曲は何が言いたいのかわからない」と言う読後感の他にもうひとつの疑問、最終場面の唐突さ、もあった。ファウストは、現世で好き放題できる代わりに、あの世では魂を売る契約を悪魔メフィストフェレスと取り交わす。ファウストは「あのセリフ」を口にすれば、死ぬことになるのだが、メフィストフェレスはそのセリフを言わせようと、できるだけの工夫をする。ファウストがそのセリフを言うのが第二部第五幕「館の広大な前庭」の場面である。ところが続く二場「埋葬」と「山峡」を(ここが本当の大団円)読むと置いてきぼりになってしまう。話が全く変わってしまい、大学生当時この場面を読んで「えっ」と茫然とした覚えがある。本書によればこの最終の二場はファウスト伝説(「ファウスト」は元々民間伝説で、ゲーテはそのキャラクターを活用して独自に戯曲化した)とゲーテの女性遍歴、キリスト教などに関する人生観に基づく設定によるもので、付録なのだと言う。読んでなるほどと思った次第。これで心起きなくゲーテの「ファウスト」が読めると確信した。また本書は、粗筋の各所で、作曲家が歌曲などにした場面だとの説明もありその点も自分には嬉しい内容である。自分は粗筋を知っているので躊躇なく本書を先に読んだが、まっさらな状態で「ファウスト」をまずは味わい、読んですぐに本書を手にしても良いのではないかと思う。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1688 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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