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ゆうちゃん
レビュアー:
名作「魔の山」の短い、優れた解説書。既読者にも得るところが多い。
魔の山は2017年の年末に読んだ。このテレビ番組で解説をしてくれるというので、読後感を新たにするためにテキストを買い、テレビも視聴した。

「魔の山」概説
時は20世紀初頭、主人公は青年であるハンス・カストルプ。彼はスイスのダヴォスの山中のサナトリウムで療養している従兄で軍人のヨーアヒムを見舞いに行く。そこは世界各国から人が集まる場所だった。ハンスの滞在は3週間の予定だったが、病気にかかる、そこに魅了されるなどして長期に渡った。その間、ハンスの教育者を買って出るセテムブリーニ、ハンスが恋焦がれるロシア人ショーシャ夫人、宗教家ナフタなどと出会いがある。この間、ヨーアヒムは医師の助言を振り切って軍人として山を降りたが、病気が悪化して戻り亡くなった。戦争が勃発して長期に渡ったハンスの滞在は終わり、彼は兵士として出征してゆく。
「魔の山」(上)
「魔の山」(下)

1千ページを超える大作でありながら、ハンスの滞在中の事件らしい事件は、ヨーアヒムの死くらいである。人々との出会いとその人たちとの会話を楽しむ小説と言える。この解説本とテレビを視聴しての気づきは、以下のようなものだった。
・小説の構想の変遷
僕は一貫した小説だと思っていたが上巻に相当する部分は「恋の茶番」と言う軽めの作品であり、本来はここで完結するはずだった。それが第一次世界大の衝撃を受けて小説の構想が大きく変わったとのこと。それに第一次世界大戦前は保守的だったマンの政治的思想は、第一次世界大戦を経てワイマール共和国擁護とリベラルな方向に変って行った。念のため手持ちの本の解説も読んでみたが、構想の変遷には触れられていない。
・語り手の饒舌さ
本書は語り手が居るが、小黒氏によれば非常に饒舌ながら肝心のところでは沈黙するという特性があるそうだ。僕は小説の視点(人称)に注意して読むほうだが、饒舌の度合いまでは気が回らなかった。
・主人公の名に込められた意味
小黒氏によれば四重の意味があるそうだ。一つ目は、ハンス(日本でいえば太郎に相当する一般的な名)、二つ目はその汎用的な名を踏まえ「ハンス」に国家としてのドイツの表象を込めているとのこと。あとのふたつは聖書に絡む名だが読んでのお楽しみ。
・ヨハネ黙示録との関係
7と言う数値との関連やそのほかの幾つかの表象により、特に小説の後半でヨハネ黙示録との関連が深いそうだ。

このほかにも細かい点を挙げれば、読み過ごしたところは多々あるのだが、やはりこう言った小説の書誌的な部分(構想や裏の意図など)は、専門家の本を読むと大いに啓発されるものだと思った。7年前に読んだ小説だが、若い頃の雑な読み方と違い、自分なりに精読しつつ再読した小説なので、未だに印象に残る作品である。テレビでも本書でも魔の山の読書を登山に例えているが、富士山くらいに魅力的な小説であるだけに、このような専門家によるお手軽な解説本の存在はありがたい。なお、テレビを見ていて毎度思うのだが、タレントの伊集院光の反応やコメントには舌を巻く。彼は素晴らしい読書センスの持主だと思う。
本書の巻末には「トニオ・クレーガー」の6頁ほどの解説もあるが、こちらも短いながらも秀逸である。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1688 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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