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三太郎さん
三太郎
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英国のプレミアリーグに所属する地方都市のチームでは、UEFAカップの決勝戦を控え、主力選手が次々警察に捕まるという異常事態が発生する。目下失業中の素人探偵が悪戦苦闘しながら事件の真相に迫る。
原書が1999年に出された英国サッカーのプレミアリーグの某チームを舞台にしたハードボイルド風?ミステリー。チーム名は小説では単に「シティー」となっていますが、マンチェスター・シティーをイメージして書かれた印象があります。

小説が書かれた当時のマンチェスター・シティーはぱっとしないチームだったのですが、今では世界のクラブチームを代表するようなビッグチームとなっています。オーナーはアラブのお金持ちで、世界中に提携するチームを持っていて、日本では横浜Fマリノスの株主でもあります。

小説に描かれているシティーはまだそんなビッグチームになる気配はなくて、むしろ低迷状態ですが、今まさに新しいオーナーが大金で有能なスター選手を集めているところです。

そんな中、チームの4名の主力選手が痴漢行為、暴行、麻薬所持、飲酒運転の疑いで次々と警察に捕まってしまい、主力を欠いたチームは危機的な状況に陥りました。そこでたまたま最初の痴漢事件の現場に居合わせた失業中の主人公がクラブの総務部長に依頼されてにわか探偵となり、事件の真相を探り出すことに。痴漢にあったと訴えた女性が主人公の高校時代の同級生で、元ファッションモデルで今は実はコールガールだったという設定です。

4名の選手は皆主力選手で、総務部長は誰かの陰謀を疑っていますが、小説の中盤までは容疑者が浮かび上がってきません。事件の背景にはサッカーを巡るお金の動きに大きな変化が起きていることがありました。選手の代理人やチームの元会長がちょっと怪しいのですが・・・実は事件の裏にはギャングがいて、最後の場面では主人公は無人のサッカー場のフィールド内でギャングと対峙することに。

本作ではサッカービジネスが巨額の富を生んでいくようになる様子をリアルに描いています。

当時のイギリス経済はサッチャーの新自由主義経済政策により、金融関係だけが活況を呈してる状態だったようです。労働者の生活は貧しくなる一方で公共の福祉は削られ、貧富の差が拡大してる中、労者階級の家庭から大学へ進学し文学を専攻した主人公は卒業後も高給の仕事には付けず失業を繰り返し、ビジネスの世界で生きていこうとする妻との結婚生活は破綻寸前でした。

主人公は労働者階級の街で育った高校時代の二人の同級生と再会するのですが、その結末は無残なものでした。金融業が繁栄する陰で社会から脱落した人々が当時のイギリスには多数いたのだろうなと思いましたよ。

著者のフィル・アンドリュースは英国のスポーツジャーナリストで本作が最初の小説だとか。続編もあるそうですが、翻訳は見当たりませんでした。マンチェスター・シティーの今日の栄光を予見して書いたのだとしたら大したものだと思います。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:829 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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